救急車の適正利用を呼びかけようと、横浜市消防局が2017年度から年10回以上救急車を利用した人に対して戸別訪問を始めたことを明らかにした。神奈川新聞が3月10日に報じた。記事によれば、横浜市消防局で2016年に10回以上救急車を利用した人は168人いたという。
救急車の救急出動件数は年々増加傾向にある。消防庁が発表する救急救助の現況(2017年度版)によれば、2016年度は約620万件と前年比で約15万件増加。このうち入院を必要としない軽症で搬送された人の割合は49.3%と半分以上を占めている。緊急を要する人への対応が遅れれば、救命率にも影響が出かねない。
横浜市消防局救急課がYouTubeで公開している動画によれば、実際に救急車で搬送された軽症の人のうち「自力で歩けるんだけど自家用車がないんです」「優先的に診察してもらえるから」と説明した事例があったという。こうした救急車の不適切な利用は、違法にならないのだろうか。平野 武弁護士に聞いた。
●消防法違反や偽計業務妨害罪に問われる可能性も
救急車は消防機関による救急業務に用いられる車両ですが、この「救急業務」とは「傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急隊によって、医療機関その他の場所に搬送することをいう(一部中略)。」(消防法第2条9号)とされています。
そうすると、軽症であるにもかかわらず、「自力で歩けるが自家用車がない」、「優先的に診察してもらえる」などの理由で救急車を利用することは、「救急業務」の要件を満たしておらず、本来、救急車を利用することはできないと言えます。
そして、軽症であるにもかかわらず、重症であるかのような「虚偽の通報」をして救急車を利用したような場合には、消防法違反(30万円以下の罰金または拘留)や、悪質な場合には、偽計業務妨害罪(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)に問われる可能性もあります。
●利用者が判断するのも難しいのが実情
このように、法律上罪に問われる可能性もあります。救急車の不適切な利用というのは認められませんが、実際には医師ではない一般の利用者が、救急車に通報する前に「軽症」か「重症」かを区別することは簡単ではないでしょう。
あまりに救急車の利用を抑制しすぎると、かえって、本来利用すべき人まで委縮して利用を控えてしまうという、本末転倒な結果にもなりかねません。
この問題は各個人のモラルに委ねられている面が大きいです。本当に必要な人が救急車を利用できるよう、1人1人の意識を高めていくことが大切だと考えます。