経済界トップから「終身雇用は限界だ」という発言が相次いで、大きな波紋を広げている。
日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は5月13日、記者会見で「(終身雇用は)雇用をずっと続けている企業、そして税金をずっと納めている企業に対して、インセンティブはあまりないわけです」「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきたんじゃないのかな」と述べた。
また、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は5月14日、「(終身雇用は)昭和の時代は大変よく機能したと思います」「ただ、経済そのものが大きく変革した中で、やはり制度疲労を起している可能性があるので、(終身雇用)もたないと思っています」と語った。
さらに経団連の中西宏明会長も5月7日、「終身雇用を前提とすること自体が限界になる」「もうだめになりそうな事業を雇用を維持するために残すようなことをすると、雇用されている方にとって一番不幸なんです」と話していた。
経済界トップのこうした認識・発言について、インターネット上では賛否があるが、労働弁護士はどのようにとらえたのだろうか。佐々木亮弁護士に聞いた。
●「終身雇用」が別の意味で使われている
そもそも、現在の日本では、パートや派遣などの非正規雇用者の割合が、労働者全体の4割となっています。正社員であっても、決して良好な雇用環境でないことも多く、そもそも「終身雇用」は幻想のようなものにすぎません。
過去を振り返っても「終身雇用」と言われるものは、大企業の男性労働者の一部にはあったといえるものの、労働者みんなが「終身雇用」だった時代など一度もありません。
注意すべきは、それでも経団連会長やトヨタ社長が「終身雇用」と言っていることの意味です。
おそらく、彼らがいう「終身雇用」は、私たちがなんとなく思い浮かべる意味ではなく、現行法制における解雇に対する規制のことを言っているのだろうと思います。つまり、経団連会長も、トヨタ社長も「もっと自由に解雇できる社会がいい」と言っているだけです。
経済界の相次ぐこうした発言は、労働契約法や整理解雇法理で、経営者が労働者を思うように解雇できない法制度を「変えてしまえ」という狼煙(のろし)であり、国民がどんな反応をするのか見てみようという観測気球のようなものと思えます。
現在、厚労省で解雇法制に関する研究会があり、そこで検討がされていますが、その内容は、経済界にとっては不満がある内容だと思われます。彼らはこうした発言を重ねることで、官邸ルートから横槍が入ることを期待しているのではないかと邪推してしまいます。
いずれにしても、現状でも不合理な解雇は多くなされているのですから、これ以上、経営者が自由に解雇ができる社会を作ってしまえば、安定した持続的な社会を作っていくのは難しくなるのではないでしょうか。