「息子がバイト先の店から無断欠勤の損害賠償を請求されました」。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者によると、賠償額は1日5000円計算で、6日間分で計30000円。さらに「誠意をみせろ」ということで追加で70000円が上乗せされ、あわせて10万円を請求されています。また延滞金が1日1000円になるそう。
相談者は「少し危ない店らしく今回の支払いだけではなくダラダラと請求されそうで不安です」と打ち明けます。こうした場合、お金を支払わなきゃいけないのでしょうか。村松由紀子弁護士に聞きました。
●「従業員による損害についても、基本的には雇用主が負担すべき」
ーー息子は支払いに応じる義務はありますか
結論から言って、支払いをする義務はありません。
相談者の息子さんが無断欠勤をしたことは、労働契約の不履行となります。しかし、労働契約の不履行について、雇用主が違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることは、法律上、禁止されています(労働基準法16条)。
ーー雇用契約の場合に、サインなどしていた場合はどうなりますか。
バイト先との雇用契約などで、「無断欠勤の場合、1日5000円の賠償」などと定められており、バイト先がこれを根拠に6日分、計3万円や延滞料を請求しているとしても、一切、支払う必要はありません。
ーーでは従業員は、何をしても賠償請求されることはないのですか。
そうではありません。上記の法律も、雇用主に現実損害が発生した際の従業員への損害賠償請求そのものを、禁止しているわけではありません。
ただ、実務上は、「雇用主は従業員によって利益を得ているのであるから、従業員による損害についても、基本的には雇用主が負担すべき」と考えており、従業員の賠償責任について限定的に認めているにすぎません。
●勝手に相殺はできない
ーー今回、相談者の息子は無断欠勤をしたとのことでした。
息子さんは、アルバイトの立場ですので、他の従業員でも補える業務でしょうし、アルバイト1人の欠勤によって、営業損失などが生じるとは考えにくいです。
「少し危ない店」ということですが、まずは、支払いを拒絶し、それでも支払いを強要される場合は、労働基準局に相談するのが良いでしょう。
なお、万が一、損害賠償義務が発生したとしても、雇用主は、労働者に給料の全額を支払わなければならない義務を負うため(労働基準法24条)、バイト先が、バイト代と賠償金を相殺することはできません。
したがって、仮に勝手に相殺された場合も、労働基準局に相談するのが良いと思います。