「準委任契約なのに、請負会社が自社の正社員のように扱ってきます。偽装請負になる気がしてなりません」。
SES契約で企業に常駐してシステム開発を行うITエンジニアの30代男性から、弁護士ドットコムニュースのLINE@にこんな相談が寄せられた。
男性はエンジニアの労働時間(工数)を提供するSES(システムエンジニアリングサービス)会社と「準委任契約」を結んだ。男性は請負会社に常駐し、業務を行なっていたが、「契約上まずい体制」が多々見られたと話す。
●多重下請け構造に
男性は2年ほど前、現在のSES会社に登録し、その半年後からIT企業のA社に出向した。SES会社と交わした業務委託契約書では、月140〜200時間の労働に対して賃金が支払われることになっている。
準委任契約では、発注者から請負労働者に指揮命令することは「偽装請負」と判断される。しかし、男性が交わした契約書では「指揮系統は現場の会社に委譲する」と書かれていた。
当初はA社のリーダーもプロジェクトの状況を認識し、その指揮のもと業務を行っていた。
しかし、もともとの発注会社が、自社のグループ会社であるB社を途中から間にはさんできた。B社が、発注会社が担っていたシステム運用や開発を任されるようになったためだ。
その結果、「発注会社→B社→A社→SES会社→男性」という多重下請け構造で仕事をすることになった。
予算の関係でメンバーは減らされ、A社からは男性だけが引き続きプロジェクトを担当することになった。しかし、SES会社はB社と契約をし直さず、B社からは「A社として取引させて」と言われた。
A社は今もプロジェクトに関わるべきである立場だ。しかし、全く関わろうとせず、業務を男性に一任。男性は、B社の指示に従い業務を行っており、勤怠もB社に管理されることになった。
しかし、プロジェクトが落ち着いている際に男性が休むと「B社への客映えが悪いから」と怒ってくるという。
「準委任契約は毎日出社して稼働時間を報告する契約と解釈されている傾向に感じます。SES会社にも伝えましたが『業界の通例なので』と言われました」。
男性はこれまでSES会社を通じて複数の会社で働いた経験があるが、「今回のような形で業務を進めるのは初めて」だと話す。
●「どうせバレない」は通用しない
「SESを受け入れたけど、労働監督署がきた」、「SESの運用はこれで大丈夫か」。
中野秀俊弁護士の元にはSES会社や請負会社側から年間40~50件ほど相談が寄せられる。IT企業の経営経験もある中野弁護士は「SESをなくすと現場が成り立たず、日本のシステムが提供できなくなる」と話す。
かつて、労働者派遣事業には「一般派遣(一般労働者派遣)」と「特定派遣(特定労働者派遣)」があった。一般派遣が許可制なのに対して特定派遣は届出制。ソフトウェア開発の多くは、特定派遣によって、労働者派遣事業を行ってきた。
それが労働者派遣法の改正により、平成30年9月29日をもって許可制である「一般派遣」と統一されたため、特定派遣事業者は新たに許可を受ける必要が出てきた。
許可を受けるためには、資産要件や事業所の面積、派遣元責任者などの基準をクリアしなければならない。これに対して、一般労働者派遣事業の許可を有しないSES会社は「原価ゼロで始められる」(中野弁護士)ため、小規模なところも多いという。
発注者から請負労働者に対して直接指揮命令することは、一般労働者派遣事業の許可を有しないとできない。しかし、現状は、SES会社を通じて常駐する男性に対して指示をする「偽装請負」や会社のルールを押し付けられるといった事例が相次いでいる。
一方で、男性は「個人で仕事をしているので、請負会社とのコネクションが開く、新しい案件を探してくれて紹介してくれるSES会社は重宝している」とSES会社に登録するメリットも感じている。
労働者派遣法に違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。
SES契約書の内容や運用についてアドバイスをしている中野弁護士は「みんなやっているから、どうせバレないだろうというのは通用しません。SES会社が責任者を置いたり、3日〜1週間分の指示書のようなものを用意したりする必要があります」と話していた。
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