「アホか」「しっかりせえや」――。生粋の関西人にとっては何気ない一言でも、標準語で暮らしてきた人にとっては少し怖いと感じてしまう人は少なくないらしい。特に、日本企業で働く外国人社員たちは、そうした傾向が強いようだ。
MSN産経ニュースによると、ある関西の企業で、上司が外国人社員に関西弁で「お前、何しとんねん」と注意したところ、関西弁の微妙なニュアンスが伝わらず、「ひどく叱られた」と勘違いされてしまったそうだ。このような事態を防ぐために、クボタやパナソニックなど関西に拠点を置く企業が共同で、外国人社員の「受け入れマニュアル」を作成しているのだという。
では、「アホ」や「何しとんねん」など関西弁独特の表現があだとなって、上司が部下に精神的ダメージを与えてしまった場合、パワーハラスメント(パワハラ)になってしまうのだろうか。労働問題が専門で、関西に事務所を構える山田長正弁護士に聞いた。
●親愛のこもった「アホ」もある
山田弁護士は「パワハラの定義は法律で明確にされているわけではない」と断りつつ、次のように説明する。
「厚生労働省は、『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為』と、パワハラを定義しています。
ここでのキーワードは『業務の適正な範囲』です。
つまり、受け止め方によっては不満に感じる指示や注意・指導があっても、『業務の適正な範囲内』であればパワハラには該当しないのです」
はたして、「アホ」という言葉が、業務と結びつく余地はあるのだろうか?
「関西人にとって、叱咤激励の際に使う「アホ」や「何しとんねん」は、親愛のこもった表現とも言えます。
そのことを前提にすると、使った側は、むしろ仕事上の信頼関係を築く目的で(つまり業務の範囲内で)、その言葉を使った、という意識かもしれません」
山田弁護士によると、こうした言葉には、関西独特の使われ方があるようだ。ただ、その微妙なニュアンスが、他人にきちんと伝わるとは限らないだろう。
「そうですね。言われた側の捉え方は多種多様です。ましてや相手が外国の方であれば、そうした言葉をそのまま使うのは、配慮が足りない部分があるのではないでしょうか」
●発言後のフォローも大事
山田弁護士もこのように、誤解が生じる可能性を認める。それでは、やはり「アホ」や「何しとんねん」といった言葉には注意が必要なのだろうか?
「何が『業務の適正な範囲』を超えるかについての解釈は、行為が行われた状況やその背景によって異なります。また、パワハラに該当するかどうかの判断も、これに連動して変わってきます。
したがって、『アホ』『何しとんねん』といった発言が一概にパワハラであり、違法であるとまでは断定しがたい面があります。しかし、必ずしも適切であるとも思われません。
そうした発言については注意をはらったうえで、もし誤解が生じていそうならきちんとフォローを行う等の配慮もすべきと言えるでしょう」