少年が公園で拾った「お宝」が約2000年前の「本物の財宝」だった、というニュースが注目を集めた。
4年前、当時小学1年生だった少年に拾われ、大事に保管されていた謎の金属片。それが実は、公園近くの古墳に納められていた青銅鏡の一部だったことが、神戸市教育委員会の調査で判明したのだ。青銅鏡は国の重要文化財に指定されていて、調査結果を知った少年は、金属片を市に「寄贈」したという。
今回のように、拾った「何か」がたまたま価値ある文化財だった場合、その「所有権」はどうなるのだろうか。少年がこの金属片をそのまま「自分のモノ」にし続けることも、法的には可能だったのだろうか。伊藤隆啓弁護士に聞いた。
●所有者のない物体は自分のモノにできる
「所有者のないモノは、法律上『無主物』といいます(民法239条)。
『無主物』のうち、不動産は国の所有になります(同条2項)。一方、それ以外(動産)については、『所有の意思をもって占有する』ことによって、所有権を取得することができます(同条1項)」
かみ砕いて言うと、もともと誰の所有物でもない物体は、自分のモノだと思って所持すれば、実際に自分の所有物になる。ある意味「早いもの勝ち」の状況だ、ということだろう。
だが、冷静に考えると、拾ったモノについて「誰の所有物でもない」と断言するのは簡単ではなさそうだ。他人の落とし物を勝手に自分のものにすれば、むしろ犯罪となってしまうだろう。伊藤弁護士は次のように続ける。
「誰の所有か分からない『遺失物』や、地中の『埋蔵物』などは、遺失物法の規定に従い、警察署長に提出するなどの手続を経なければ、所有権を取得することはできません」
それでは、今回の少年のような場合はどうなるのだろうか?
「今回のように、所有者がいないことが明らかな状態で発見された古代民族の青銅器や土器、発掘された古生物の化石などは、無主の動産であると解されています。
この少年は『無主物』を家に持ち帰り、自分の所有物として保管したのですから、所有権も取得していたと言えるでしょう」
●重要文化財は「文化財保護法」に従って管理しなくてはいけない
そうすると、少年は必ずしも「寄贈」しなくても良かったのだろうか。
「自分の所有物が、国の『重要文化財』に指定されたとしても、所有権が国に移ることはありません。しかし、重要文化財の所有者は、文化財保護法に従って、それを管理する義務があります(文化財保護法31条)。
今回の少年が神戸市に寄贈した青銅鏡の一部は、重要文化財に指定される可能性が高いでしょう。その場合、少年が市に寄贈しなければ、文化財保護法に従って少年自身が適切にそれを管理しなければなりません。
所有者による管理が著しく困難な場合などは、地方自治体が代わりに管理する場合もあり得ます(文化財保護法32条の2)」
この場合の「管理」とは、単に保管しておけば良い、というわけでもないようだ。
「文化財の所有者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存し、できるかぎり公開するなどの文化的活用に努める義務があります(同法4条)」
こういった諸々を考えると、少年の判断は大正解だったと言えそうだ。
伊藤弁護士は「拾ったモノに歴史上の価値があるかもしれないと思ったら、今回の少年のように学校や市に相談するか、『埋蔵物』として警察に提出して、対応を委ねるべきでしょう」と、アドバイスをしていた。