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「社長が認知症」中小企業が直面した危機、そのとき従業員たちがすべきことは?
画像はイメージです(kahon / PIXTA)

「社長が認知症」中小企業が直面した危機、そのとき従業員たちがすべきことは?

社長が認知症なのですが、どう対処したら良いのでしょうかーー。中小企業で働く男性から弁護士ドットコムの法律相談コーナーに質問が寄せられました。

男性の会社は株式会社で、代表取締役(社長)が中度以上の認知症だといいます。取締役の1人も軽度認知症の疑いがあるとか。男性自身も会社の株は持っていますが、比率が少ないため、社長を辞めさせられないと嘆いています。

高齢化社会を反映しているのか、相談コーナーには、この男性以外にも「自社株100%保有の認知症社長を解任出来ますか」「オーナー社長が痴呆になり会社の存続危機」などの投稿がありました。

認知症になった社長が出す指示に、従業員は従わないとならないのでしょうか。また、社長が結んだ契約などは法的に有効になるのでしょうか。社長が認知症になったとき、従業員がどうすべきかを湊 信明弁護士に聞きました。

●まがりなりにも仕事ができているのであれば、意思表示は有効

ーー認知症の社長の指示や契約は有効と言える?

社長が会社でまがりなりにも仕事ができているのであれば、認知症は進んでいたとしても中程度でしょう。その程度であれば当該社長の意思表示は有効です。

従って、従業員に対する業務命令は、内容が公序良俗に反するものでない限り有効であり、社長の指示にも従わなければならないということになります。社長が他社との間で締結した契約も同様に有効と考えられます。

一方、仮に社長の認知症が重篤で意思能力が認められない程度に至っている場合は、その意思表示は無効です。従って、業務命令に従う必要はありませんし、社長が行った契約も無効ということになります。

●社長をどう辞めさせるか 従業員ができること

ーー認知症の人の仕事をいかに確保するかという議論も必要ですが…。社長が認知症だと取引先とのトラブルも起きそうです

社長の認知症が中程度であったとしても、この社長は自分が行った業務命令を忘れてしまったり、矛盾する業務命令を発したり、あるいは会社に不利益となる契約を締結してトラブルを引き起こしたりすることもあり得るでしょう。

このままでは従業員、取引先及び株主ら様々な利害関係者が困ります。そこで、何とかしてこの社長に辞めてもらう必要がでてきます。

しかし、中小企業の場合、社長が株式の大多数を保有し、会社の支配権を有しているのが通常ですから、株主総会や取締役会の決議によって代表取締役の地位を失わせることは困難です。

ーーでは、従業員はどうしたら良いのでしょう?

判断能力が不十分な人を保護・支援する仕組みに「法定後見制度」があります。支援の必要度合いに応じて、(1)後見、(2)保佐、(3)補助と3つの段階があり、もっとも強い「後見」では、本人に変わって、さまざまな契約や財産管理を代行できます。

さて、取締役は、「後見」または「保佐」が開始するとその地位を失うことになります(会社法331条1項2号)。従って、後見開始の審判または保佐開始の審判を得るのがもっとも確実ということになります。

もっとも、その審判を行うには親族等の請求が必要ですから(民法7条、民法11条)、従業員が親族でない場合には、当該審判を得ることはできません。

このような場合には、社長の家族に働きかけて請求してもらうように仕向けていくことが重要です。社長の家族も、社長が後日損害賠償請求をされる事態は避けたいと思うでしょうから、多くの場合には後見または保佐の申し立てに協力してくれると思います。

後見人または保佐人が選任されたら、株主総会を開催して、後見人または保佐人が社長の株主権を行使して、新しい取締役を選任し、取締役会で代表取締役を選任すれば認知症に罹患していない社長に就任してもらえることになります。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

湊 信明
湊 信明(みなと のぶあき)弁護士 湊総合法律事務所
東京弁護士会。企業法務を中心として、交通事故や親族相続問題まで幅広く案件を扱っている。著書に『医療紛争の法律相談』(青林書院)、『遺言書作成・遺言執行実行マニュアル』(新日本法規出版)など多数。

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