リクルートキャリアが2018年卒大学生の内定取得者を調査したところ、就職内定率は10月1日時点で92.1%となりました。一方、内定辞退率は64.6%となり、同社が集計した過去6年間で最も高かったことがわかりました。
内定辞退率が6割超というニュースが流れると、Twitterではその辞退の方法が話題になりました。ユーザーたちの間では、「内定辞退の時には直接会社へ行ってお断りするのがマナーという話があるが、企業が学生を落とす時はお祈りメール1本で済ますのだから、学生もメールでOKだろう」という声が上がりました。
果たして、本当に内定辞退をメール1本で済まそうとすることに問題はないのでしょうか。黒栁武史弁護士に聞きました。
●内定通知で「労働契約成立」、辞退は電話でもメールでもOKだけど……
企業からの「内定通知」は、企業と学生にとって、どのような法的な意味がありますか。
「通常、採用内定通知が学生に届いた時点で、(正社員の場合であれば)期間の定めのない労働契約が成立したものと判断されることになります。ただ、企業には、学生が大学を卒業できなかったなどの事情が生じた場合に、内定を取り消す権利が留保されます(解約権留保付労働契約成立説。最高裁昭和54年7月20日判決など)。
しかし、企業による内定取消が認められる場合は限られており、前述の場合のほか、重大な経歴詐称が判明した場合など、合理的な理由が認められる場合に限定されます」
採用内定通知で労働契約が成立するのであれば、学生はどういう形で内定辞退をするのが望ましいのでしょうか。
「企業による内定取消と異なり、学生からの内定辞退は基本的に自由であり、いつでも内定辞退の申入れを行うことができます(民法627条1項)。内定辞退の方法についても、法律上は特に限定されていません。
ただ、内定辞退の申入れが著しく信義則上の義務に違反する態様で行われた場合には、内定者に損害賠償責任が生じるとする裁判例もあります(東京地裁平成24年12月28日判決など)」
内定辞退をメール1本で済ませることは、法律上問題はないのでしょうか。
「内定辞退をメール1本で済ませても、直ちに信義に反するとはいえないと思います。ただ、法律上の責任の有無と、マナーとして何が望ましいかは別です。後者の点からは、内定辞退の意思が固まった時点で速やかに、また、状況に応じてできる限り丁寧に内定辞退の報告を行うことが望ましいといえます。もっとも企業側の対応に問題があるような場合は別ですが」
内定辞退をする際に企業から嫌がらせや恫喝をされることを恐れ、対面ではなく、メールで済ませたいと考える学生もいるようです。万が一、企業が内定辞退をした学生に嫌がらせや恫喝をした場合、どういう法的問題に発展しますか。
「前述のとおり、内定辞退は基本的に学生の自由であり、企業側としては、無理に学生を引き留めることはできません。企業が学生に対し、嫌がらせや恫喝を伴うような悪質な引き留め行為を行えば、学生から損害賠償請求(民法709条)を受ける可能性がありますし、強要罪(刑法223条)等の刑事上の罪に問われる可能性もあり得えます」