仕事中、不注意で会社のPC(パソコン)に水をこぼして故障させてしまったら、社長から「弁償代として5万円支払ってほしい」と言われたーー。インターネットのQ&Aサイトで、このような投稿がありました。
相談者は会社が貸与したPCに誤ってペットボトルの水をこぼし、壊してしまいました。わざとではないにせよ、自分のミスであることは認識しているそうですが、給料も安い中、5万円の負担を求められることには抵抗があるようです。
仕事中のちょっとした不注意によってPCのような会社の備品を壊した場合、従業員が賠償する義務はあるのでしょうか。柴田幸正弁護士に聞きました。
●会社が簡単に全額弁償を求めることはできない
「従業員は、会社との労働契約に基づいて労務提供する義務を負っていますから、その義務に違反して会社に損害を与えた場合は、会社に対する債務不履行責任を負うことになります。また、備品を壊す行為が民法の不法行為に当たる場合には、不法行為責任も負うことになります。
ただ、会社が被った損害の全額を労働者が賠償せねばならない、というのでは、会社に比べて資力が乏しいのが一般的な従業員に酷な結果をもたらします」
では、支払い義務についてはどうなるのか。
「裁判所では、会社が従業員に対して壊れた備品についての弁償を求める際でも、使用者と労働者の間の経済力の差や、労働者の労務提供により使用者が利益をあげているといった点を踏まえて、『信義則上相当と認められる限度において』のみ、弁償を求めることができる、と考えられています」
「信義則上相当な限度」とはどのような意味か。
「それだけでは曖昧ですが、従業員の帰責性(責任があるか)、従業員の地位・職務内容・労働条件、あるいは損害発生に対する会社の寄与度を総合的に考慮して、従業員の負担すべき割合を具体的に決めていく傾向にあります。
例えば、従業員が業務でタンクローリーを運転中に事故を起こしてしまった事案で、会社が保険に加入せず、他方で従業員の勤務成績も普通以上だった、などという事情がある場合には、従業員の負担割合は損害額の4分の1が限度、という判例もあります。
いずれにしても、会社が従業員に対して簡単に損害額全額の弁償を求めることはできません」
それでは、今回のケースについてはどうなのか。
「5万円という数字が損害の全額なのかなど、具体的事情が不明ですが、例えば、従業員の行為が備品損傷防止のための社内規程に反するようなことがあれば、従業員の負担割合は自ずと高くなるでしょうし、飲食しながらPCを使って業務することを会社が漫然と許していたなどということがあれば、従業員の負担割合は相当程度減額される可能性があるでしょう。
いずれにしても、PCのような精密機器の傍で飲食する際には気をつけたいですね」