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「ブラック部活指導」で潰れる教員たち…「やるのが当然」と教え込んできた責任痛感
学習院大学文学部教育学科の長沼豊教授

「ブラック部活指導」で潰れる教員たち…「やるのが当然」と教え込んできた責任痛感

「部活動の指導は教員にとって当たり前」。中学校の教員から大学教員に転じてから、ずっとそう教えてきた。しかし、教員になった真面目な教え子が、部活指導で理不尽な扱いを受け、体を壊してしまった。「BDK(部活大好き教員)」だった自分の頭を後ろから殴られたようなショック。「自分がこれまでしてきたことは何だったのか」と苦悶の日々が続く。

学習院大学文学部教育学科の長沼豊教授(53)は、自身のこのような体験から、部活動改革に関わるようになった。2015年の冬に教員有志が始めた署名活動「部活がブラックすぎて倒れそう…教師に部活の顧問をする・しないの選択権を下さい!」をサポートしている。部活動に悩む全国の教職員だけでなく、教育関係者や政府も巻き込みながら、新しい動きが活発化している。どんな動きが起きているのか、部活は今後どうあるべきなのか、長沼教授に聞いた。

●部活に関わることは当然のことと思っていた

13年間の私立中教員時代、長沼氏は水泳の正顧問を務めていた。水泳は小学校時代にスイミングスクールに通った経験しかなかった。それでも部活動の時間になると生徒と同じように水着に着替え、一緒に泳いでアドバイスをした。「他校との対抗戦でギリギリで勝ったときには、生徒とびしょ濡れになって喜んでね。教員やっててよかったなぁと思ったし、一生忘れられない経験ですよ」。

水泳部だけではない。バスケットボールの副顧問も掛け持ちし、ボランティア同好会も自ら立ち上げるほどの「BDK(部活大好き教員)」だった。バスケ部は一度試合で勝つと、どんどん土日の予定が埋まっていった。「何より『生徒のために』という言葉があると、頑張っちゃうんですよ」。もっと熱心にやっている教員もいたから、これが「普通」だったし、教員として部活に関わることは「当然」のことだった。

1999年からは学習院大学の助教授(現教授)として、中学・高校教員の教職課程に携わるようになった。授業では自身の体験を振り返り、学生にこう伝えた。「教員になったら部活動をすることは当たり前」、「経験していなくても、ルールを1から覚えるんだぞ」。部活動のあり方について、全く疑うことはなかった。

●真面目な教え子が、部活動で潰された

転機となったのは2015年12月。教員6名が立ち上げた団体「部活問題対策プロジェクト」との出会いだった。彼らはツイッターで、部活顧問の選択制を求めて署名活動を行っていた。そこでは、部活動は教育課程外の活動であること、部活動の指導は教師のボランティアで行われていること、そしてそれが全員顧問制度という慣習のもとに教師に強制されていることなどが指摘されていた。

理路整然と部活動における問題を指摘する6人の要望書。これまで部活動顧問の存在を疑いもしてこなかった。そして6人の熱意に惹かれて、コンタクトを取るようになった。要望書は誰もが読んで納得するような内容になるようアドバイスし、翌年3月に行った署名を文科省に提出する際も付き添った。

何が長沼教授をそこまで動かすのか。それは部活で疲弊した教え子の存在だった。公立の教員になった教え子の一人は、ある部の副顧問になったが、理不尽な正顧問に罵声を浴びせられ、体を壊して休職した。「真面目ないい子が部活動で潰されてしまうことに、腹立たしさを感じた」。

そして、自身のこれまでの教えを反省した。「教職課程で『部活動はやるもんだ』と繰り返し伝えてきたから。50代になってこれまで自分がやってきたことを否定するのは、なかなかしんどいものです。でも頑張ってやってみようと思ってね」。

●位置づけが曖昧な部活動

部活動については様々に指摘されてはいるが、一番の問題は何なのだろうか。それは部活動の位置づけが曖昧であることだと長沼教授は指摘する。

「学校教育の一環ではあるが、教育課程外の活動となっている。さらに時間外勤務を命じられる『超勤4項目』にも該当しないので、勤務ではない。つまり労働ではないんだけど、土日の大会引率などには一部手当が出るためボランティアとも言い切れない」。ただ、そこには顧問をやる・やらないを選択する自由がほぼ与えられていない。

●必修クラブ活動の復活を

部活動のあり方については、様々な意見がある。「学校から全て無くしてしまえばいい」、「意義があるから学校には残すもののブラックな体質は改善した方がいい」。部活動改革論の中でも、意見は対立しているという。一方で部活動には、チームワークや友情、集団行動を学ぶという意義も大いにある。普段の授業だけでは見えてこない生徒の一面が垣間見えるのも部活動だ。

教職員の長時間労働の一因となっている部活動をどう改革していけばいいのか。長沼氏は「反対する人もいるだろうが」と前置きした上で、段階的に部活動を学校から切り離し、外部に出していくことを提案する。

まず休養日を設定し、外部指導員を確保した後に、顧問の選択制を導入する。そして部活動を外部化していく。これとは別に、かつて1969年、70年告示の学習指導要領で必修化され、中学・高校は1998年、99年の学習指導要領改訂まで行われていた「必修クラブ活動」を復活させるというのが改革の最終段階だ(小学校は現在も必修として存在する)。

必修クラブは週1時間で、学校教育の教育課程の中に位置づけ、教員の勤務時間内で終わるものとする。「必修クラブは自分たちで考えて運営する。だから教員も指導者ではなく、顧問として関わることになる」。

●教育界の同調圧力を利用したい

これまでツイッターで教職員やその関係者と繋がっていた長沼氏だったが、顔の見える関係を作ろうと、2017年3月には「部活動のあり方を考え語り合う研究集会」を開催。自身でも各都道府県や各市町村で部活動の状況について全国から情報を集めて、自身のツイッターで発信している。

「教育界って同調圧力があって、『隣の自治体があんなこと始めた』というと『こっちもなんか考えなきゃな』と焦り始めるんです。先進的な取り組みを進めるために、その同調圧力を逆に利用していきたいですね」。

長沼教授自身の部活動顧問の経験や、部活動改革に乗り出した理由についてまとめた書籍「部活動の不思議を語り合おう」(ひつじ書房)は、8月10日に出版予定。

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