DeNA(ディー・エヌ・エー)の採用担当者が、入社試験を受けた女性をホテルに連れ込んだーー。「週刊文春」(4月26日発売)がそう報じた。
週刊文春によると、この女性は昨年、DeNAの入社試験を受けた。その際、同社の面接担当の20代男性社員と「食事をしながら」の面接を受けることになった。その面接を終えたあと、男性社員からバーに誘われた。女性は仕事について聞くつもりだったが、男性社員の態度が豹変したという。
バーでは異性関係の話になり、そのうち男性社員は女性の足を触りはじめたという。バーから出ると、男性社員は女性に抱きついてキスしてきて、さらに、タクシーでシティホテルに連れ込まれたという。週刊文春の取材に対して、男性社員は、ホテルに一緒に行ったことは認めながらも、性的関係を持ったことは否定したようだ。
入社試験などで、こうした「採用セクハラ」があったという報道はこれまでもされている。こちらも、当時の週刊文春のスクープがきっかけだが、共同通信社の人事部長が2012年、就職活動中の女子大学生に「不適切な行為」をしたとして、懲戒解雇になったケースがある。
立場を利用して、就職活動中の人に「セクハラ」を働くのは、不届き千万といえるが、法的にはどんな問題があるのだろうか。竹花元弁護士に聞いた。
●「就活セクハラ」の加害者に対して損害賠償を求めることができる
「いわゆる『セクハラ』とは、一般的に、雇用関係を背景にしておこなわれる『性的な嫌がらせ』のことを指します。
一方で、今回のケースでは、就活生と採用担当者の間に雇用契約はありません。しかし、雇用契約の成立を目指す学生とその成否を握ると考えられる人物という、雇用契約に類似する関係性にあります。セクハラ行為の本質の一つには、雇用契約上の上下関係があるために拒否をしづらいという点があります。
『就活セクハラ』においても近い状況にあるため、いわゆる『セクハラ』とまったく同じではないもの、類似の論点が生じます」
民事上の観点から、どのような法的問題があるのだろうか。
「(1)被害者から加害者側に対する損害賠償請求の成否と(2)加害者の社内における懲戒処分という問題があります。
まず、(1)としては、相手の同意なく体に触ったり、性行為をおこなえば、不法行為(民法709条)に該当して、被害者から加害者に対する慰謝料請求等が認められます。
また、加害者は採用活動の一環としておこなっている外形を有しているため、被害者は、加害者の所属企業に対しても、使用者責任(民法715条)を問うことができる場合が多いと考えられます。
次に、(2)としては、そのような就活セクハラをおこなった従業員に対して、所属企業が『懲戒処分』という社内処分をおこなうことが考えられます。懲戒処分は『社内秩序を乱したことに対する制裁罰』の性格を持ちます。
行為の悪質性と処分の重さの均衡、報道の有無、社内の過去事例との比較などから、その有効性が審査されますが(労働契約法15条参照)、少なくとも、今回報道されたようなケースでは、社内秩序を乱す程度は甚大であり、重い処分(懲戒解雇)が有効と判断される可能性が高いと考えられます」
なお、今回の採用担当者はすでに退職しているという。
●一人で抱え込まずに相談することが大切
刑事上の観点からはどうだろうか。
「刑事上の観点からは、行為の内容によって、強制わいせつ罪(刑法176条)と強姦罪(刑法177条)の成否が問題になります。
いずれも『暴行または脅迫』があったことが要件となります。この点、就活セクハラでは露骨な暴行があることは少なく、脅迫に該当するか否かが問題となるケースが多いと考えらえます。
この場合の『脅迫』とは、『相手方の反抗を著しく困難にさせる程度の害悪の告知』を意味します。採用担当者が『拒否したら採用しない』という趣旨の発言をおこなって、性的な行為に及んだ場合、そのようは発言によって学生が反抗できなくなったと評価され、強制わいせつ罪または強姦罪が成立する可能性が高いと思います」
こうした「就活セクハラ」にあった場合、どう対応すべきか。
「これまで述べてきたように、学生が不法行為の被害者としての側面があるほか、加害者の社内処分、加害者に対する刑事処分という側面もあります。加害者が約束(たとえば『採用する』という約束)を守る保証はありませんし、加害者が常習犯であった場合に次の被害者が出る可能性もあります。
被害にあった場合には、(a)加害者または所属企業に対して損害賠償請求をおこなう、(b)会社に情報提供して懲戒処分を促す、(c)警察に告訴状または被害届を提出して刑事処分を求めるというような選択肢があります。
一人で抱え込まずに、両親や友人、大学の学生課、弁護士、(事案によっては)警察に相談することが大切です。
就活セクハラは密室でおこなわれるのが通常ですから、いずれの方法をとる場合にも、被害者が加害者の言動を立証できるかがポイントとなります。
たとえば、採用担当者に食事に誘われるなどして、途中から『おかしいな』と感じたら、スマホの録音アプリなどを使って、会話内容を録音しておくことが、その後の立証の観点から極めて重要です。そのような証拠の存在が、いずれの処分を求める場合にも決め手となることがあるでしょう」