九州管区警察局は3月上旬、上司や部下に対してパワハラ行為をおこなったとして、同局大分県情報通信部の男性係長(44)を、減給10分の1の懲戒処分にした。
報道によれば、係長は20代の男性職員に対して「ばか」などの暴言や威圧的な行動を繰り返したほか、上司の50代男性職員に「もういいかげん、職を辞していただけないですか」などとメールで迫ったという。
部下に対する言動が「パワハラ」だと問題になることはあっても、上司に対する「パワハラ」はあまり聞かない。上司に対する行為が「パワハラ」となる時は、どんな時なのか。呉 裕麻弁護士に聞いた。
●部下からの暴言も「パワハラ」になる
「部下から上司への暴言は『パワハラ』といえます。上司へのパワハラも、部下へのパワハラも、パワハラの要件(要素)を満たせば成り立つのであり、その意味において、両者には何ら違いはないからです。
本件で問題となっている上司へのメールなどは、その内容や回数が過剰なものとしてパワハラの成立が認められたのではないかと思われます」
パワハラはどのように定義されているのだろうか。
「パワハラとは、次のように定義されています。
(1)職権などのパワーを背景に、
(2)適正な業務の範囲を超え、
(3)継続的に精神的肉体的苦痛を与える、もしくは労働環境を悪化させる行為
このように、パワハラはそもそも職権などのパワー(権力)を背景にしていることから、会社の上司から部下になされることが一般的でした。しかし最近では、部下から上司に対するパワハラが問題となるケースが散見されるようになってきました」
●「部下からのパワハラ」が生まれた背景
なぜだろうか。
「もちろん、本人の素質によるところも大きいでしょう。ただ、別の要素として、年功序列制度が廃止され、実力主義を採用する会社が増えたことも背景にあると考えられます。上司よりも部下の方が、実力が上であったり、経験が豊富であったりする場合などに、年上の部下が上司に対して嫌がらせを行うのです。
このようなケースでは、役職上の地位は上司の方が上でも、実際の仕事の能力においては部下の方が上という状況になることもあり、ある意味では部下の方が上司に優越するパワーを持っていると言いうるのです。
そして、部下がこのようなパワーを背景に、上司に対して嫌味を言う、嫌がらせをすることとなれば、上司としては精神的苦痛を受けることとなります」