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公務員の「過労自殺」控訴審、遺族が逆転勝訴…裁判で争点となる「安全配慮義務」とは
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公務員の「過労自殺」控訴審、遺族が逆転勝訴…裁判で争点となる「安全配慮義務」とは

福岡県糸島市の課長だった男性(当時52)が自殺したのは、過重労働でうつ病を発症したことが原因だとして、遺族が市に7700万円の損害賠償を求めていた裁判の控訴審判決で、福岡高裁は11月10日、市の安全配慮義務を認め、1600万円の支払いを命じた。

報道によると、男性は、自治体合併に伴う工事の負担金に関する条例案の業務を担当。利害が対立するなか、住民に説明する役割を担ってきた。2010年6月に自殺し、2013年に労災にあたる公務災害と認定された。

自殺直前の1か月の時間外勤務は114時間に及んだが、1審の福岡地裁は「時間外勤務が100時間を超えたのは自殺前の1か月だけで、業務が過度の負担を強いるものではなかった」と遺族側の請求を退けていた。

一方、2審では、「男性は業務やストレスが過度に蓄積していた」と因果関係を認め、「心身の健康を損なっていることを示す明らかな兆候があった」として、上司が安全配慮義務に反したと判断。「上司が勤務時間を減らしたり、職務分担を変更したりすれば、自殺を回避することも可能だった」とした。

過労死や過労自殺に関するニュースが注目を集めるようになってきたが、職場の安全配慮義務というのはどのようなものなのだろうか。今回も1審と2審で判断が分かれたが、一般的にどういった点が争われることが多いのか。岩井羊一弁護士に聞いた。

●業務の過重性が争われることが多い

「職場の安全配慮義務というのは、使用者(会社など)が労働者を雇用するにあたって、労働者の生命、身体の健康を損なうことがないように配慮しなければならない義務をいいます。過労自殺のケースでは、平成12年の電通事件の最高裁判決が有名です」

裁判ではどのようなポイントで争われることが多いのか。

「過労自殺をめぐる安全配慮義務についてよく争われるのは業務の過重性です。遺族は、精神疾患に罹患し自殺するような過重な業務をさせていたので、使用者は業務の量を適正に管理しなかったことで安全配慮義務違反があったと主張します。これに対し、使用者は、精神疾患に罹患するような過重な業務をさせていないから安全配慮義務違反はないと反論します。

業務の過重性の他に、使用者は、労働者に変わった様子がなく、自殺を予想することはできなかったから安全配慮義務違反がないと主張することがあります。

しかし、業務の過重性が認められるケースでは、過重な業務を認識していた以上、精神疾患の罹患や自殺の可能性についても少し注意すれば予想が可能であったとして、安全配慮義務違反が認められる可能性は高いといえます」

●高裁判決をどう見るか?

今回のケースをどう考えればいいのか。

「本件は、公務災害として認定されている事案でした。しかし、1審判決は、業務について過重だと評価せず、その結果、市に安全配慮義務違反もないと結論づけたようです。これに対し、高裁判決は業務の過重性を認め、安全配慮義務も認めました。

もっとも高裁判決は、管理職として仕事量を調整できる立場にあったこと、メンタルヘルスの相談していないこと等を理由に賠償額を8割減額しています。この点、平成12年の電通事件の最高裁判決は、労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない事情では賠償額を減額できないとしています。上記の事情が労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるような事情といえるのか疑問が残ります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

岩井 羊一
岩井 羊一(いわい よういち)弁護士 岩井羊一法律事務所
過労死弁護団全国連絡会議幹事、日弁連刑事弁護センター副委員長 愛知県弁護士会刑事弁護委員会 副委員長

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