「アリさんマーク」で知られる引越社のグループ会社で、一日中立ちっぱなしの「シュレッダー係」に異動させられた30代男性の労働状況に迫るドキュメンタリー映画「アリ地獄天国(仮)」(土屋トカチ監督)が現在、制作されている。5月8日には、土屋監督と男性本人、代理人弁護士らが出演するトークイベントが東京・阿佐ヶ谷のライブハウスであり、男性が現在の心境を語った。
●今も「シュレッダー係」のまま
男性は2011年、引越社関東(東京)に入社したが、長時間労働にもかかわらず、残業代が支払われなかったという。さらに、昨年1月に営業車の運転中に車両事故を起こした際、会社から48万円の弁償代を請求されたという。
男性は昨年3月、未払い残業代や弁償金返還などを求めて、個人で入れる労働組合「プレカリアートユニオン」に加入した。ところが、これをきっかけに、営業職から「アポイント部」に配置転換。さらに、昨年6月には、一日中立ちっぱなしの「シュレッダー係」に異動を命じられた。
昨年7月、男性は命令無効や未払い残業代などを求めて訴訟を起こしたが、懲戒解雇された。さらに、引越社のグループ全店には、男性の氏名と顔写真入りで、解雇理由を「罪状」と書いた貼り紙を掲示されるなどしたそうだ。その後、解雇は撤回されて復職したが、今も「シュレッダー係」のままだ。
●「シュレッダー係に異動する人事はあってはならないこと」
この日のイベントでは、現在も取材・制作が続いているドキュメンタリー映画が上映された。約30分の映像には、男性が加入する労働組合が引越社関東・東京本社前で抗議活動をおこなったときの様子や、男性がシュレッダーのゴミを捨てに行くシーン、男性の家族のエピソードなどが映し出された。
シュレッダー係への異動を命じられてからもうすぐ1年を迎える男性は上映後、「客観的にもひどい」と感想を述べた。また、「自分にとって、仕事は達成感や社会貢献が含まれるが、今はお金を稼ぐだけの労働だ。ほとんど無の境地でシュレッダーをやっている」と打ち明けた。このゴールデン・ウィークもほとんど休みをとれなかったそうだ。
男性の代理人をつとめる大久保修一弁護士は「シュレッダー係に異動する人事や、従業員に弁償金を支払わせることはあってはならないこと。今後の裁判で、会社の違法な部分をあぶり出していく」と語った。
プレカリアートユニオンの清水直子委員長は「引越社は、働いている人からお金を取り上げるというやり方で安い価格設定をしてダンピング競争を加速させている。その部分も含めて改めさせて、引越業界全体に変化をもたらしたい」と強調していた。