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21時間勤務、過労の果ての事故死「キラキラした人生はたたきつぶされた」母が涙ぐむ
代理人弁護士とともに登壇した渡辺淳子さん

21時間勤務、過労の果ての事故死「キラキラした人生はたたきつぶされた」母が涙ぐむ

若者の過労死の問題や、雇用対策を考えるシンポジウム「若者の過労死とブラック企業、若者の雇用対策のいま〜渡辺航太さん過労事故死事件を通じて〜」(主催:ブラック企業対策プロジェクト)が10月8日、東京・下北沢で開催された。

シンポジウムには、息子の渡辺航太さんを過労事故で亡くした渡辺淳子さんや、過労死を考える家族の会代表の寺西笑子さん、若者の雇用対策に詳しい上西充子・法政大学教授らが登壇。

上西教授はパネルディスカッションで、「学生の間にも、ブラック企業に行きたくないとか、先輩が長時間労働してるという認識はある」と語った。しかし一方で「固定残業代や、裁量労働制については学生はほとんど知らない。学生の側が知らなくて、企業がいいように使っているという非対称性がすさまじい」と指摘した。

●「手がもげても、足がもげても働け」「苦しい顔をするな、いつも笑ってろ」

会社からの帰宅途中、バイク事故で亡くなった渡辺航太さん(当時24歳)の母・淳子さんは、「頑張り屋で、言われたことはやり遂げる子。だからこそ、好きなように使われてしまったのかな」と、声を震わせ、時には涙を浮かべながら語った。

航太さんが、勤務先からの帰宅途中、事故死したのは2014年4月24日のことだった。

「過労のため居眠り運転でした。事故の目撃者によると、『すいこまれるように歩道に寄っていき、電柱にぶつかった』ということです」

息子の死の原因を知りたい―—。淳子さんは、その一念で会社にタイムカードや勤務表を要求し、航太さんの手帳や関係者の証言を調べた。そして事故から一年後の2015年4月24日、会社に1億651万円の賠償を求めて、横浜地裁川崎支部に提訴した。

原告代理人の川岸卓哉弁護士によると、航太さんは大学卒業後の2013年10月、商業施設などに観葉植物を装飾する会社(本社・東京都)にアルバイトとして入社した。いずれ正社員になることを期待して、アルバイトとしての就労を承諾したという。

同社のハローワークの求人票には、「就業時間 8時50分〜17時50分」「時間外 月平均20時間」などと書かれていたが、実態は求人票の表記とは全く異なっていた。

観葉植物の運び込み業務は深夜から早朝にかけて行われることが多く、不規則な長時間労働に従事させられた。また、1ヵ月間の時間外労働が134時間に及ぶこともあった。

「先輩から『手がもげても、足がもげても働け』『苦しい顔をするな、いつも笑ってろ』『さすが平成生まれだね』と言われることもあり、パワハラ体質があったと思う。それでも、正社員として働きたいと頑張っていたのではないか」川岸弁護士はこのように語る。

●「私はどうやって止めればよかったのか」

航太さんの頑張りをよそに、会社からはなかなか正社員採用の声がかからなかった。淳子さんは、「内定がもらえないならやめて、他を探そうか?」と勧めたが、航太さんは同社で働き続けることを選んだ。

「就活を一からやり直すのは本当に辛かったのでしょう。我慢して、正社員になれば、他の社員と同じようにもう少し勤務時間も楽になるはずだと、本人も迷いながらも手を抜かず頑張っていました」

正社員としての採用を、口頭で伝えられたのは入社から半年後の2014年3月15日だった。しかし、喜んだのもつかの間、正社員になっても勤務時間は今までと変わらず、長時間労働が加速していったという。

「好きな仕事に巡り会えた喜びはあるけど、考え直さなければならない」航太さんは淳子さんにそう話し、5月の連休には、お互いに時間をとって、今後の身の処し方を決めるつもりだった。

しかし、親子でそう話したわずか4日後、前日の午前11時からその日の朝8時までの約21時間、仮眠も取らずに働いていた航太さんは、自宅への帰宅途中、バイク事故を起こし、死亡した。淳子さんは、「彼のキラキラと輝いた人生はたたきつぶされてしまった」と語る。

「どこの部分で、彼はやめておけば、諦めればよかったのか。親の私はどうやって止めればよかったのか、まだわかりません。

現在働く若者が、航太とどこか似ている経験をしているのではないかと思う。若者の過労死を繰り返さないためにも、この裁判を勝ち抜いていきたい」

(弁護士ドットコムニュース)

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