東京都内のIT企業に勤めるMさん(30代・女性)は、職場のエアコンの温度に悩んでいる。以前の職場は広いフロアであまり気にならなかったが、転職した職場は以前よりもこじんまりとしたオフィス。そのせいもあってか、エアコンの冷気がひどく気になるというのだ。
もともと寒がりで冷え性のMさん。夏でもカイロは手放せないほどで、普段、職場ではできる限りの厚着をして対策しているという。しかし、外回りから汗だくになって帰ってきた営業スタッフが設定温度を22~23度まで下げてしまうと、業務に支障が出るほど寒くて辛くなるのだという。
「寒い人は厚着をすればいい」という言い分もあるだろうが、いくら厚着をしても、エアコンの冷気で体調を崩してしまう人はどうしたらよいだろうか。会社に対して環境改善を要求できるだろうか。労働問題にくわしい河野祥多弁護士に聞いた。
●事務所の室温は17~28度
「会社は、従業員が快適に仕事をすることができる環境を提供する義務があります。ただし、社内の温度管理については、個人差が大きく、その対応が難しいところです。法律上は、事務所衛生基準規則と言うのがあり、事業者は、室温を17度以上28度以下に努めるようにとされています。また、同規則によって、室温を外気温より著しく低くしてはいけない、とも規定されています」
では、今回の事例のように、エアコンの設定を22~23度に下げた状態はどうだろうか。規則の範囲内だが…。
「単純に問題がないと言い切ることはできません。17度という下限は、冬を想定したものだからです。夏には、人間の自律神経が5度以上の温度変化には十分に対応できないという点を考慮すべきです。この規則を合理的に解釈するなら、特に外気が35度を超えるような猛暑日の場合に、22~23度まで温度を下げるのは、問題となり得る場合もでてくるでしょう」
●労使の話し合いで、快適な職場環境を
「しかし、現場の事情は様々です。あとは事案に応じて、労使共々に十分に話し合いをしながら、一緒に快適な環境を作っていくという姿勢が大切ですね。
たとえば、Mさんが会社側と相談して座る席を変えたり、エアコンの風向きを調整したり、扇風機を活用したりすれば、対処可能な場合が多いでしょう。
当たり前の話ですが、事業者はもとより、社員全員が、それぞれ相手の立場にたってゆずりあう気持ちを持つことが大切なのです」
MさんにはMさんの事情があり、外回りには外回りの事情がある。河野弁護士は、ゆずりあいの心を説いて締めくくった。