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客からのチップは「会社のもの」、社内ルールで無慈悲に没収…自分のものにしたらダメ?
(Yokohama Photo Base / PIXTA)

客からのチップは「会社のもの」、社内ルールで無慈悲に没収…自分のものにしたらダメ?

「自分がお客さんからもらったチップなのに、会社に“没収”されるのは納得いかない」

こう話すのは、都内飲食店で働くアユミさん(30代女性)です。店を貸切で利用した客から現金を手渡しされました。そのままフトコロに…とはいきませんでした。

「会社のルールとして『客からもらったチップは提出せよ』と言われていたので、上司に渡しましたが、あまり納得してません。会社の利益は客から料金を取って確保しているじゃないですか」

客としても従業員個人にあげようとチップを渡したのでしょうから、会社のフトコロに入るのは想定外かもしれません。会社のルールで「チップ提出」を命じることは問題ないのでしょうか。杉浦智彦弁護士に聞きました。

●基本的には個人でもらえるが…「社内ルールで“没収”可能」

——従業員個人が客からもらうチップは、法的にはどのような扱いになりますか。

チップや心付けは、その業務を行う人に対して、円滑に業務を進行してもらう、または業務をしてもらったことの謝礼等として支払った金銭のことを指します。

チップを渡す人の意図としても通常、「そのスタッフに気持ちよく仕事をしてもらいたい」ことを期待して渡しているでしょうから、社内ルールが特にない限り、法律的には従業員個人に対して支払われたという評価がなされるでしょう。

——「客からのチップは会社が回収する」という社内ルールは認められますか。

チップは、先述のように、基本的には従業員個人に支払われたものとなります。もっとも、業務中に受け取る業務に関連した金銭ですので、店側は従業員に対して、「客からの個人的なチップを受け取ってはならない」というルールを定めて禁止することは可能です。受け取ったチップの報告義務を従業員に課し、店が受け取ったものとするというルールにすることもできます。

●チップ文化根付いてないと「不公平感が出る」

——店は料金を客からとっている以上、チップまで“没収”するのは「欲張り」で、従業員のやる気にも悪影響がありそうですが、会社側がルールを設ける理由とは何でしょうか。

チップが文化として根付いている欧米などでは、従業員もチップを期待して働いているという面があります。

しかし、日本ではチップ文化がほとんどなく、従業員個人によるサービスの良し悪しより、店として提供するサービスの良し悪しを評価する傾向があるといえるでしょう。

そのような中で支払われるチップは、従業員個人の質が特段高いことに対してもらえたというよりも、客の気分次第という要素が強いことは否めず、チップをもらえる従業員ともらえない従業員、多くもらえる従業員と少ない従業員など不公平感が生じる可能性があります。

また、飲食店ならまだしも、医療機関などの場合は職業倫理にかかわるような場合もあります。

チップが従業員のモチベーションアップに繋がる側面があるのは間違いないでしょうが、文化が根づいていない中では偶然による要素が強く、不公平感が出てしまう制度です。個人的な受け取りを禁止して会社が回収するという制度も、一定程度合理性があるといえるでしょう。

——チップを受け取った従業員が社内ルールに従わず自分のものにしてしまった場合はどうなりますか。

チップは従業員のものになりますが、社内規程に違反するわけですから、懲戒処分の対象になる可能性があるでしょう。

プロフィール

杉浦 智彦
杉浦 智彦(すぎうら ともひこ)弁護士 弁護士法人横浜パートナー法律事務所
神奈川県弁護士会所属。刑事弁護と中小企業法務を専門的に取り扱う。刑事事件では、特に身柄の早期解放に定評がある。日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事務局員としても活躍。

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