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夜中に出産、翌朝から仕事を再開 今も支援が乏しすぎる「自営業の産休・育休」 
写真はイメージです(buritora / PIXTA)

夜中に出産、翌朝から仕事を再開 今も支援が乏しすぎる「自営業の産休・育休」 

自営業やフリーランスは、休業期間は収入減となる人が多い。正社員と比較すると、出産と育児で利用できる制度は少なく、安心して子どもを産むには支援が不十分だ。今回取材をしたフリーランスの女性も、出産前と出産直後は、金銭的な不安を抱えていた。岸田政権が「異次元の少子化対策」を打ち出しても、ほとんど状況は変わっていない。当事者の声を紹介したい。(ライター・ミアキス 梶塚美帆)

● 出産から数時間後、病院のベッドで生徒の宿題を添削

愛知県に住むフランス語講師の由紀さん(仮名、30歳)は、1年前に第一子を出産。現在は1歳の子どもを育てながら仕事をしている。由紀さんはパートナーやその友人と計4名で会社を経営する形にしており、会社役員という立場だ。ただ、やっているのはオンラインプラットフォームを使った個別のレッスンなので、働き方としては、フリーランスに近い。

雇われている会社員に比べて、自営業、フリーランス、会社役員は、出産や育児に対する給付が手薄である。会社役員であれば出産手当金の適用になる可能性はあるが、最大で子どもが1歳6カ月または2歳となった日の前日まで、休業開始前の収入の67%を受給できる育児休業給付金の支給がないことの影響は非常に大きい。これは岸田政権の「異次元の少子化対策」にも盛り込まれず、支援の「穴」になっている。

由紀さんは、出産前は「お金に対する不安が大きかった」と振り返る。

「食べていけるかという不安がありました。役員報酬として決めた月5万円はもらえるけれど、それは自分たちが働いて利益が出て、会社にお金があるから払える金額。会社にお金がなくなったら、それももらえない。さらに、出産の前後は、経営が危ない状況でした」

小規模な会社の場合、一人欠けたときの影響は大きい。だからこそ由紀さんは、産休も育休も取らなかった。オンラインでのフランス語のレッスンは、出産予定日の1カ月前から休業し、産後3カ月ほど経った頃に復帰した。ただし、宿題のやり取りや質問受付などは、1日も休まなかったそうだ。

「夜中に出産し、翌日の朝にはパソコンを開いて宿題の添削をしていました。その後は、フランス人の多くが3カ月育児休業して復帰すると聞いていたので、それに倣って復帰しました」

●泣く子を抱えてオンラインレッスン

現在も待機児童問題が解決されたとは言えないだろう。4月入園でさえ厳しい地域がある中、年度の途中で入園させることはさらに難しい。由紀さんは、保育園に預けることなくオンラインでのレッスンを再開させた。

「復帰してすぐの頃は、子どもが寝てくれていたので、割とスムーズに授業ができました。しばらくすると、動くようになり、泣き出すこともあり、謝りながら授業することもありました。私の生徒さんは先輩ママが多く、理解してくださる方ばかりだったので本当に助けられました。泣く子を見て、かわいい時期だね、と言ってくださって、ありがたかった」

由紀さんの生徒のほとんどは、昼間に会社勤めをしている社会人である。だから、レッスンの時間は夜になることが多い。さらに、由紀さんの業務は、レッスンで使う資料作りなどもあり、多岐に渡る。生後4カ月の子どもといえば、まだ3〜5時間に1回の授乳が必要な時期である。由紀さんは「毎日24時ぐらいまで働いていましたが、あまりに寝られず、眠すぎて辛かった」と当時を振り返る。

そこまでして働く理由は何だったのだろうか。

「子どもを幸せにするためには、先立つものがないといけない。本当は、子どもと過ごす時間も仕事の時間も、同じように大切にして情熱を注ぎたい。でも、子どもの相手をしていては仕事にならない。子どもに申し訳ないことをしているという思いがずっとありました」

だから今は、働き方を見直し、動画の講座を作って販売するなどのシステムを構築している最中だそうだ。売上も出産前より伸びているという。それでも、丸一日休みという日はまだない。「丸一日休んで、ゆっくり家族で過ごせる日を作りたい」と希望を話してくれた。

●「ここまで利用できる制度がないとは」と驚いた

宮城県でまつ毛パーマなどのアイサロンを経営する沙織さん(仮名、36歳)は、この取材の3週間後が出産予定日だった。沙織さんは個人事業主で、サロンには業務委託のスタッフが2名いる。スタッフとの契約は、売上に応じて給与が支払われる歩合制である。

沙織さんも金銭面での不安を抱く。

「休む間は自分の収入がなくなります。初めての出産でこの先何にどのぐらいお金がかかるかもわからず、今は不安でいっぱい。それに、スタッフの2名は入ったばかりで、まだお客さんが付いていない。家賃や広告などの固定費もかかるので、しっかり集客して、彼女たちが生活できるぐらいの売上は立ててあげたい」

そのため、沙織さんは産前産後も休みなく働く予定だという。「お客さんに施術するサロンワークは出産予定日の1カ月前までやっていました。その後、最近入ったスタッフ1名に研修を行い、今は事務作業に専念しています」。仕事復帰については未定だそうで、復帰の際には「子どもの一時預かりを利用しながら働くことになりそう」と話す。

つわりの時期は、サロンの引越しなどとも重なり、「辛いけど自分しかいない」と自分を奮い立たせながら安定期が来るのを待ったと振り返る。

沙織さんは、個人事業主が利用できる制度の少なさに、「ここまで無いとは」と驚いたという。

「雇われている会社員が育児休業給付金をもらえるように、1年ほど休んでも余裕を持てる支援がほしい。それがあれば、焦って仕事復帰をすることもなく、楽しく子育てができるかもしれない」

●育休の給付金をもらえるなら、雇用保険に入りたいか

自営業やフリーランスでも、社会保険料の免除は受けられる。有給無給を問わず、産前6週+産後8週は社会保険料が免除される制度だ。この制度を利用するためには、申請が必要である。

由紀さんは今回の取材中にこの制度があることを知り、制度を利用できなかったことになる。

沙織さんは、「妊娠届を出した時に、母子健康手帳や、産前産後のサポートの案内などが入ったファイル一式の中に、社会保険料免除についての書類があり、それで知った」と話す。さらに、個人事業主が利用できる制度など、「何かありませんか?」と漠然と質問してみたそうだ。社会保険料の免除を知ることはできたが、今は仕事が手一杯で、申請は産後に行う予定である。

自営業やフリーランスは、仕事を休まずに出産予定日を迎える人もいる。沙織さんは「やらなければいけないことが多すぎて、現行の制度を調べる時間も、そこに不満を抱く余裕もない」と話す。給付や免除の対象となる人が、漏れなく制度を利用できるようになることも課題となるだろう。

また、雇われている会社員の育児休業給付金は、雇用保険から支払われている。現行の制度では、自営業やフリーランス、会社役員は、雇用保険に入ることができない。もし、育児休業給付金がもらえるなら、年間数万円の雇用保険料を払うかと尋ねたところ、二人とも「払いたい」「その制度があれば利用したい」と答えた。

自営業やフリーランスは、雇用保険による育児休業給付金の給付拡充の対象に含めることは難しいとされている。支援を拡充する上で、何が課題となっているのだろうか。後編の記事で検討したい。

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