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私、おじさんに粘着クリーナーで全身を“コロコロ”されてます…「持ち物検査だ」は通用する?
画像はイメージです(アオサン / PIXTA)

私、おじさんに粘着クリーナーで全身を“コロコロ”されてます…「持ち物検査だ」は通用する?

職場で受ける「身だしなみチェック」は違法ではないのでしょうか——。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

飲食店でパートとして働く相談者は、スマホ所持防止のため、勤務開始前に粘着クリーナーで衣服の上から全身を“コロコロ”されているそうです。チェックする側が同性ならまだしも、異性の場合もあるそうで「強制されるのが不快です」といい、セクハラではないかとの疑問を持っています。

直接手で触られてチェックされているわけではありませんが、粘着クリーナーでの身だしなみチェックは問題ないのでしょうか。金井英人弁護士に聞きました。

●飲食店で持ち物検査「必要性低い」

——スマホ所持防止目的とはいえ、粘着クリーナーで衣服の上から全身を“コロコロ”することはセクハラに当たるのでしょうか。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場内での他人を不快にさせる性的な言動や、職場外で職員が他の職員を不快にさせる性的な言動などのことをいい、「言動」には身体に触れるなどの行動も含まれます。

男女雇用機会均等法では、セクハラに対する労働者の対応によって労働者本人が労働条件で不利益を受けたり、職場環境が害されたりしないように、事業主が対応措置を講じるよう定めています。

基本的には、受け手の側が不快に感じる言動はセクハラになり得ますので、身体に不必要に触れるのはセクハラにあたる可能性があります。

今回の場合、スマホ所持防止のためにわざわざ身体をチェックする必要があるとはいえませんので、たとえ服の上から粘着クリーナーを使っていたとしても、身体に触れられることが不快と感じるのであれば、同性間・異性間問わずセクハラになる可能性はあります。

また、仮にセクハラにあたらないとしても、不必要に身体に触れられたくない、身体検査を受けたくないという個人としての人格権を侵害したとして、不法行為(民法709条)に当たる場合もあります。いずれの場合も、触れた本人や事業主は損害賠償を請求されることになります。

——スマホ所持防止のための持ち物チェック自体は問題ないのでしょうか。

事業主が労働者の所持品を検査することができるかについては、労働者のプライバシーに踏み込むことになりますので、慎重でなければなりません。

この点について判例は、(1)検査を必要とする合理的理由があるか、(2)検査の方法が一般的に妥当な方法と程度か、(3)制度として職場従業員に画一的に実施されるか、(4)明示の根拠があるかといった要件を満たす必要があるとしています(最高裁昭和43年8月2日判決)。

スマホは音が鳴ったり、業務中に見てしまったりと、時として業務の妨げになることはあり得ます。

しかし、飲食店の従業員に対して荷物やポケットの中身を開示させたり、触れたりなど、プライバシー侵害の危険を冒してまで持ち物チェックをする必要があるとはいいにくいです。

基本的には、勤務中はスマホの電源を切るかしまっておくよう指示したり、口頭で指導したりするにとどめるべきでしょう。

プロフィール

金井 英人
金井 英人(かない ひでひと)弁護士 弁護士法人名古屋法律事務所 みどり事務所
愛知県弁護士会所属。労働事件、家事事件、刑事事件など幅広く事件を扱う。現在はブラックバイト対策弁護団あいちに所属し、ワークルール教育や若者を中心とした労働・貧困問題に取り組んでいる。

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