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「子連れ出勤」は癒し?迷惑? 5月に本格導入した愛知・豊明市の本音を聞いた
画像はイメージです(den-sen / PIXTA)

「子連れ出勤」は癒し?迷惑? 5月に本格導入した愛知・豊明市の本音を聞いた

岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の試案が2023年3月に公表され話題となったが、「子どもを役所に連れてきて仕事する」という試みを実施した自治体がある。

愛知県豊明市は子連れ出勤制度「ワークwithチャイルド(ワチャ)」を3月6日から4月7日まで試行実施。5月1日から本格的に導入した。

ワチャは、「緊急一時的な措置として、子どもを職場に帯同することが最良であること」を条件として、0歳児から小学3年生までを対象に、職場内かサテライトオフィスで職員自身が世話をしながら業務にあたるというもの。「多様な働き方のモデルの一つ」になることを目的としている。

試行後のアンケート調査では好意的な回答が多かったというが、ワチャ利用者や利用しなかった職員の本音はどうなのか。豊明市子育て支援課の松村清子氏に、ワチャに対する職員からの意見や今後の展望などを聞いた。

●「子どもを見ると癒される」という声も

同市は、試行期間を経て職員を対象にアンケート調査を実施。帯同対象となる子どもがいた職員のうち、ワチャを利用したのは26.6パーセントだった。このうち「また利用しても良いと思った」と回答した割合は71.4パーセントと高水準だった。

所属部署にワチャ利用者がいた職員で「子どもがいても構わない」と回答した割合は70.2パーセントと好意的だった一方、 自所属にワチャ利用者がいなかった職員は43.8パーセントと半分以下だった。

アンケート結果からはワチャに対し好意的な声が多かったようだが、現場のリアルな声はどうなのか。

「試験実施直後に職員から話を聞いたところ、子連れ出勤をした職員からは、『子どもが騒いで同僚や市民に迷惑をかけるのではないか心配だったけど、職場のみんなが優しく迎え入れてくれて嬉しかったです』『子どもが思っていたよりもお利口に過ごしていて、ホッとしています』『途中退勤することなく、その日に予定していた仕事を片付けることができました』という声が聞かれました。

また、同僚や上司からは、『子どもを見るとなごむ・癒される』『親子のやり取りを見て微笑ましく思う』『受け入れる側でしたが、特に問題はなかったです』という前向きな声も多かったです」

松村氏は「子どもや子育て中の職員に対する職場の人達の理解が深まったように感じています」と雰囲気の変化を口にする。

「職員の子どもが『他人』ではなく『知っている○○ちゃん』という認識を持つようになったことが大きいです。たとえば、子どもが病気のために休む際、『○○ちゃんが病気なのか』と職員の子どもを身近な存在として理解し、子どもが理由で休むことの許容度が上がりました。今後子育て中の職員がより休みやすくなることが期待できます」

●「子どもがどうしても気になって集中できない」

画像タイトル 所属の各課内以外にも、休憩室や会議室をサテライトオフィスとして帯同場所に設定した(豊明市役所提供)

一方、アンケート結果では 「仕事の効率は少し下がった気がする」「(子どもがおとなしくしていても)子どもの行動が気になり仕事がはかどらなかった」という意見が寄せられた。業務遂行における弊害も少なからずは発生したようだ。

ワチャは5月1日から本格的に導入された。今後の運用方針については「保育園や児童クラブ、学童など、普段の預け先に体調不良以外の何らかの理由で預けることができない時の緊急的・一時的な運用を前提としていく予定です」と説明する。

「職員が短時間でも職場に出向いて仕事をする必要がある状況が発生した場合に、『知らない空間や知らない人に子どもを預けるよりも職場に帯同することが子どもにとって良い』と思われた時に利用できる制度として、利用要件や職務専念に関することなどを整理したいと考えています」

親としては、知らない人や場所に子どもを預けるより、職場内でそばにいた方が安心できるだろう。しかし、保育園、幼稚園、小学校、学童などと異なり、大きな声を出したり走り回ったりすることができない環境で過ごすことが、子どもにとって良いのかどうかは別論だ。

試験期間中の子どもの様子について、松村氏は「3歳の子どもが次の日も職場に帯同することを望み、普段の保育園に行くのを嫌がったというケースもありました」という。子どもが親から離れたがらなくなってしまうのは、親にとっていいことばかりではないだろう。

一方で「子どもの中には『暇だった』という声もありました。ですが、職員である父や母がそばにいるからなのか、穏やかに楽しそうに過ごしている子どもがほとんどでした」とも話す。

「職員の中には『お母さんの仕事を知ることができて良かった。お母さんの仕事の大変さがわかった』と子どもから声をかけられたという話も聞いています」

●保育士の常設「今のところ考えていない」

現状は保護者である職員自身が子どもを見守る形だが、今後は保育士などの専門家が常駐し、職員は仕事に専念するという運用も考えられるところだ。

専門家の常駐について、松村氏は「今のところ考えていません」と話す。

「子どもが職場にいることを職員全体が受容する姿勢を市民のみなさんに見せることで、市民のみなさんにも同じように受容してもらう。そして、市全体が子どもと子育て家庭に対して、より一層寛容な地域になっていくことを目指すための大きな一歩とするための取り組みとして続けていきたいです」

前例のない挑戦であり、内外から批判されることもあるかもしれない。ただ、子育て支援は少子化対策の重要な柱の1つだ。豊明市のワチャが「異次元の少子化対策」のロールモデルになっている未来に期待したい。

【筆者プロフィール】望月悠木:主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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