持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指して活動している労働組合「SDGsユニオン」は2月1日、大手コンビニ3社に対し、恵方巻の食品ロス対策として過剰な販売競争を規制するよう求める要求書を提出した。
節分の時期に食べられる恵方巻だが、売れ残りの大量廃棄が近年、社会的に問題視されており、農水省や消費者庁なども食品ロス対策を呼びかけている。
ユニオンは、コンビニ業界の恵方巻の食品ロスについて、SGDsの実現に反する事態であるだけでなく、加盟店の店長やアルバイトなどに対する「販売ノルマ強要」や「買い取り強要」といった労働問題にも絡むと指摘。労働者目線でも食品ロス対策を通じてSDGsの実現を目指すとしている。
「セブン-イレブン」「ローソン」「ファミリーマート」に提出した要求書では、(1)恵方巻の廃棄量の調査・開示、(2)過剰な販売競争の実態に関する調査・公表、(3)廃棄ロス分を加盟店に負担させ、食品ロスを助長する「コンビニ会計」の廃止、を求めている。
同日都内で開かれた会見で、SDGsユニオン代表の荻田航太郞さんは、恵方巻やクリスマスケーキなどの食品ロスについて、「企業主導で作り上げた文化やライフスタイルを変えるのは個人でできるものではないのではないか」と話し、過剰な販売競争をあおる広告や仕組みへの規制導入の必要性を訴えた。
●各社ノルマ設定を否定も、現場では「冷凍の焼き鳥をまとめて買って」
SDGsユニオンによると、要求書の提出に先立ち、「セブン-イレブン」「ローソン」「ファミリーマート」の各本部に対し、「公開質問状」を送った。恵方巻の店舗や食品工場での廃棄量に関する具体的な数値や恵方巻の販売ノルマ強要や買い取り強要の有無などを尋ねた。
3社とも店舗での廃棄量については非公表とし、食品工場等での廃棄量についても非公表または取引先の状況であるため把握していないと回答したという。
販売ノルマ強要や買い取り強要についても、3社そろって「本部から店舗に対して課してはいない」とし、設定された販売目標も個店ごとに取り組んでいるものとしている。
しかし、ユニオンのメンバーで現在もコンビニでアルバイトとして働いている大学生の片山みどり(仮名)さんは、販売ノルマについて、コンビニ側の回答と現場の実態が異なると指摘する。
「(コンビニで販売している)焼き鳥の売上について、近隣エリア100店舗ほどの数値を並べたランキング表を自分の働いている店舗で目の当たりにしました。
自分の働いている店舗の店長が、常連客に対して、『今セールやってて、ランキングもあるから、冷凍の焼き鳥を12本また買ってくれないかな』とやり取りを目撃したこともあります。
冷凍の焼き鳥は店舗で温めてお出しする商品なのに、普通に売り出している状態でない冷凍のものを常連客に頼んでまで買ってもらうという事実があることに驚愕しました」(片山さん)
片山さんは、食品が「食べ物」というより「商品」として扱われ、人々の需要に応えることではなく、売り上げを伸ばすことばかりが重要視されていることに、「自分はなぜこのような仕事に関わっているのだろうか」と苦痛に感じたという。
●「最前線に立っている労働者から食品ロスの現状を変えたい」
ユニオン代表の荻田さんは、販売現場での食品ロスや片山さんが目撃したという販売ノルマなどの現状に直面した労働者が今取れる選択肢は「辞めるか、耐えるか」だと話す。
「(食品ロスなどをめぐり)精神的に厳しい労働者にとって辞めるというのはあり得る選択肢だとは思います。しかし、辞めるだけでは職場での食品ロスの状況は変わらず、辞めたとしても他の誰かが担うしかないわけです。
その一方で、すぐに辞められない事情を抱えるなどして耐えている人もいますが、耐えるという選択肢もまた(食品ロスの)解決になりません。むしろ、自分の中での(嫌なことを耐えて働くことの)矛盾が大きくなって苦しむことにもなりかねません」(荻田さん)
荻田さんは、食品ロスの問題は「専門家でないと取り組めないのではと思われがち」としたうえで、「食品ロスの最前線に立っているのは、コンビニやスーパーで廃棄作業をしている労働者だ」と指摘する。
「最前線に立っている働いている人たちの視点から見える矛盾や問題を訴えていくことには意義があることだと考えています。
労働組合であれば、必ずしも違法行為がおこなわれているのではなくても、職場に関係する問題であれば、交渉内容として扱えます。
SDGsユニオンとして、『辞める』『耐える』ではない新しい選択肢として、『声をあげる』を提案したいと思っています」(荻田さん)