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フリーランス保護新法、国は企業の「ルール破り」にどう対応するのか 歓迎と懸念の声
法案は秋の臨時国会に提出される見込みだ(まちゃー / PIXTA)

フリーランス保護新法、国は企業の「ルール破り」にどう対応するのか 歓迎と懸念の声

推計462万人(2020年時点)のフリーランスを保護する法律案の概要が明らかになった。フリーランスは契約や報酬を巡るトラブルが多く、取引適正化が狙いだ。政府が示した「法制度の方向性」には業務内容や報酬額を書いた書面やメールの交付、報酬の支払義務などを盛り込む。取引適正化だけではなく、事業者にハラスメント対策や出産や育児、介護の両立への配慮も求める。政府は秋の臨時国会に法案を提出する見通しだ。

新法のポイントは何か。どんな法律にすべきなのか。フリーランスのトラブル相談に向き合ってきた労組関係者と、著作権と契約問題に詳しい福井健策弁護士に聞いた。(ライター・国分瑠衣子)

● 報酬や契約など、業務をめぐるトラブルが問題視されてきた

フリーランスとはどんな働き方をしている人を指すのか。国が2021年にまとめたガイドラインでは「実店舗がなく雇人もいない自営業者や一人社長で、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義している。会社員の副業も含むので、必ずしも専業とは限らない。

今回示された法制度の方向性ではフリーランスを「業務委託の相手方の事業者で、他人を使用していない者」とし、厚労省のガイドラインよりも狭く定義した。

フリーランスの職種は多岐にわたる。ITエンジニアやウェブデザイナー、広報、編集者やライター、スポーツジムのインストラクター、フードデリバリーの配達員、建設、事務職などあらゆる業種にフリーランスとして働く人がいる。

時間や場所に縛られない自由な働き方ができるとされる一方で、業務量の多さなどから1社としか仕事ができず、時間や場所をほぼ固定化されて独立性がないケースも少なくない。

立場の弱さも指摘される。なぜか。フリーランスは独立した個人事業主のため、一部のケースを除いて労働者とはみなされず労働基準法の適用外になる。労働時間規制や最低報酬の対象外だ。

中でも問題視されてきたのが報酬や契約といった業務を巡るトラブルだ。第二東京弁護士会が開設する「フリーランストラブル110番」に寄せられた相談のうち、最も多いのが報酬未払いや遅延など報酬の相談である。突然の契約解除や、一方的な仕事内容の変更、損害賠償請求を起こされたといったケースもある。

● ハラスメント対策や出産・育児へも配慮

法案はフリーランスの取引を適正化し、個人がフリーランスとして安定して働けるようにすることが狙いになる。

法案ではフリーランスに業務を委託する事業者に対し、業務委託の内容や報酬を記載したメールや書面を交付することを義務付けた。一定期間、継続的に業務委託する場合は、契約期間や契約終了する場合の理由も記載する。報酬については仕事から60日以内に支払うことも義務付ける考えだ。契約当初に決めた報酬の減額など禁止行為もまとめた。

規定に違反した場合は、国が指導や勧告を行う。事業者に対しハラスメント対策や出産、育児、介護との両立への配慮も求めた。

取引の適正化は既に下請法で義務付けられていて、フリーランスも対象ではある。が、下請法の規制対象になるのは資本金が1000万円を超える企業に限られ、小規模事業所は規制外になる。フリーランスの大半が小規模事業所と取引しているため、規制の対象外ということだ。資本金1000万円以下の企業と取引したことがあるフリーランスは約4割という実態調査もある。

また、下請法は製造委託や修理委託、情報成果物委託、役務提供委託の4種類の取引類型しか対象にしておらず、業種が多岐にわたるフリーランスの仕事の全てを取り込んでいるとは言えない。

● 公取委に労基署のような広範な指導や勧告ができるのか

音楽、映像、出版などに携わるフリーランスが所属する、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)の北健一事務局長は「相談の多くが報酬を巡るトラブルで、契約書を交わしておらず泣き寝入りするケースも多い。書面交付を義務付けた新法案は意義があります」と評価する。

北氏が特に評価するのが、事業者に対しハラスメント対策や出産、育児、介護との両立への配慮を求めた点だ。ライフリスク対策は労組やフリーランスなどでつくる協会が国に求めてきたことだ。「契約や取引適正化の枠組みを超えて、『生身の働き手』であるフリーランスを守る姿勢を示した一歩だと思います」(北氏)。

一方で北氏は「法律でルールを作ったとしても守らない会社がたくさん出てくるなど、実効性確保の問題はあります」と指摘する。今回、国が示した方針ではどの官庁が事業者の指導や監督をするのかなどは明示されていない。下請法の監督官庁は公正取引委員会だが、全国に拠点がある労働基準法違反の調査を行う労働基準監督署と比べ、規模が小さい。

「仮に公取委が行政指導を行うとすると、労基署のような広範な指導や勧告ができる体制ではありません。とはいえ私たちは増員に賛成でMICで要望もしています。それでも例えば外資系プラットフォーマーのような業界の象徴的な会社を是正指導することで、同業の企業に注意喚起を促すような役割は期待できます。

労働行政の関与やフリーランストラブル110番との連携も有効でしょう。今回のような取引ルールに加え、生身の働き手の安心を支える労働法的保護の拡張も検討してほしいと思います」(北氏)

● 不利益な契約を結んでしまう、新たなリスクに注意

今回、発注側に書面交付が義務付けられることで、仕事を受けるフリーランス側にも注意が必要になる。著作権法や契約に詳しい福井健策弁護士は「契約書面はあるほうが安心」と前置きした上で、契約書があるが故のリスクも指摘する。

「契約書に書かれていないことは、民法や著作権法など法律で守られています。一方で、契約書は法律の原則を覆すほど効力が大きいんです。内容をしっかりと確認せずに契約書にサインしてしまうと、逆に法律で守られない不利益な契約になってしまうリスクがあります」

福井弁護士はこう強調する。「契約書面を読んだ時にどんな種類の契約が提示されているか、パターンをつかんでほしい。書面を読み、不明点は納得するまで聞いて、どう変えてほしいかを交渉してください」

事業者側も混乱が想定される。小規模事業所では、契約書を作成する法務部門がないケースがほとんどだ。ネット上にある契約書のひな型をそのまま使い、意図しない契約書が出来上がってしまうことも想定される。

「事業者側、フリーランス双方が使いやすい法律にしなければなりません。国は法律を作って終わりではなく、法律の周知と、事業者やフリーランスが契約について学ぶ勉強会の開催などが求められます」(福井弁護士)

政府はフリーランス法案について9月27日までパブリックコメントを募集している。

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