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正社員から「有期雇用」に変更させられた結果「雇い止め」に…どうしたらいい?
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

正社員から「有期雇用」に変更させられた結果「雇い止め」に…どうしたらいい?

正社員として働いていたのに、有期雇用が切り替えられ、雇い止めにーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、そんな境遇の人から、相談が寄せられました。

相談者はある日、上司から、「形式的なもの」として、雇用形態が変更になることの説明がないまま、雇用形態を有期雇用に変更する内容の雇用契約書に署名するよう求められ、サインしてしまったそうです。

しかし、この署名をきっかけに、相談者の雇用形態が有期雇用に切り替わったとして、会社から「今年いっぱいで雇用終了、契約更新しない」と一方的に宣告されてしまったそうです。

相談者は上司と話し合いを続け、会社側から解決金として「既定の退職金に、月給3ヵ月分を上乗せする」ことを条件として退職する提案が出てきましたが、納得がいかないようです。投稿者はこのまま会社を辞めざるをえないのでしょうか。辞めたくない場合、どうすればいいのでしょうか。岡村勇人弁護士の解説をお届けします。

●雇用期間変更の合意自体が成立していない

労働契約の内容(労働条件)を使用者(会社など)と労働者との間の合意によって変更することは可能です(労働契約法8条)。

今回のケースの場合、雇用形態を正社員(雇用期間の定めのない契約)から有期雇用に変更するという内容の書面に相談者がサインしているので、一見すると、会社と相談者との間で雇用期間を有期に変更するとの合意がなされたように見えます。

しかし、相談者の話によれば、相談者は「形式的なもの」と言われて書面にサインしただけで、雇用期間を有期に変更することを承諾する意思はなく、会社もそのことをわかっていますので、雇用期間を有期に変更するとの合意自体がそもそも成立していない、または、雇用期間を有期に変更するとの意思表示に瑕疵があるから無効(民法93条ただし書き、民法94条1項)ということになり、雇用期間を有期に変更する合意があったとの会社の主張は認められないと考えられます。

ですから、もとの契約どおり、相談者には雇用期間の定めがないことになり、今年いっぱいで雇用期間が終了することにはならないため、たとえ会社が退職金の上乗せを提案してきたとしても、相談者が退職に納得できないということであれば、会社を辞める必要はないということになります。

ちなみに、雇用期間終了・契約更新しないという会社の主張は「解雇」と解釈されることになりますが、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、解雇は無効であり(労働契約法16条)、今回のケースでは、客観的に合理的な解雇理由が存在しないと考えられることから、相談者に対する解雇は認められないと思われます。

会社との労働契約が終了していない以上、相談者は、引き続き、会社の従業員のままということになりますので、相談者としては、「雇用期間が終了した」との会社の主張が認められないことを主張して、引き続き、会社での仕事を続けることを会社に申し出ることになります。

●契約書にサインする際は、納得してからにしよう

それでも会社側が、雇用期間が満了した(労働契約が終了した)と主張して、相談者の就労を拒否するような場合は、相談者は、裁判所に対し、引き続き、この会社の従業員として労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めることになります。

相談者の主張が認められた場合には、会社で仕事をすることができなかったのは会社が拒否したからだ(仕事ができなかったのは会社のせいだ)ということになりますので、会社に対し、就労を拒否されている期間中の給料の支払いを求めることができます。

今回の相談者の話を前提にすると、以上のようになりますが、裁判などでは、契約書などの書面が重要な証拠となります。雇用期間を有期に変更するという内容の書面に相談者がサインしていることは、裁判等ではかなり不利な材料となります。

今回のケースのように、契約の変更内容が労働者にとって不利益になるような場合、労働者が理由もなくそのような変更に応じることは考えにくいので、本当に書面どおりの合意があったのかどうかの判断は慎重に行われる傾向があり、裁判になった場合、裁判所でもこの点について慎重な判断がなされると思われますが、たとえ「形式的なもの」と言われたとしても、自分の意思と異なる書類にサインすることは避けるべきです。書面等にサインする際は、内容をきちんと確認したうえで、納得してからサインするようにしたいものです。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

岡村 勇人
岡村 勇人(おかむら はやと)弁護士 岡村法律事務所
企業の法務部門などでの会社員経験を経て、2008年に弁護士登録。労働事件のほか、交通事故、相続などを中心に幅広い分野の案件を扱う。

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