ソニーのドバイ駐在員だった40代男性が2018年1月に心臓疾患で亡くなったのは、長時間労働による過労が原因だったとして、三田労働基準監督署が2月26日付で労災認定した。遺族とその代理人が3月15日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見を開いて明らかにした。
男性は労災保険の特別加入者だったため、日本の労災が適用された。
男性の妻は「夫の命が突然失われたにも関わらず、社内では一切責任追及は行われていません。過労死というものが世界的に有名な会社でも起きているということを知ってもらい、二度と同じことが起こらないで欲しいと願います」と声を震わせながら訴えた。
●シニアマネジャーとしてドバイに赴任
代理人弁護士によると、男性は2007年2月にソニーに入社し、2015年11月にセールスマーケティング部門のシニアマネジャーとしてドバイに赴任した。一眼レフカメラを中心に中近東やアフリカにおけるマーケティング分析や予算作成などをしていた。
日本出張から戻って約10日後の2018年1月15日、現地法人の駐車場で心停止により亡くなった。
男性のタイムカードがなかったため、遺族側は、スケジュール表やLINEの記録、男性が使用していたPCのログイン時間、メール送信時刻、ファイル作成更新時刻などから労働時間を算出。元同僚の証言なども合わせ、亡くなる前3カ月間の時間外労働が約136〜265時間に及んでいたと訴えた。
三田労基署は、男性が亡くなる前の3カ月間の平均時間外労働時間が約80時間となったため、残業と死亡との因果関係を認めて労災認定した。
●夫「胃が痛くて吐き気がする」疲れ取れないまま勤務
妻によると、男性は真面目で責任感が強く優しい性格だったが、亡くなる数カ月前からはいつも疲れ切ってイライラしやすくなっていた。「仕事のことを考えると胸が苦しい。ストレスのせいだな」「胃が痛くて吐き気がする」と話し、疲れが取れないまま働いていたという。
会社側は男性が亡くなった後「しっかり調査をするから任してほしい」と遺族に話したが、数カ月後に出た社内調査結果は、時間外労働時間数が「過労死ライン」に満たないものだった。
「私は長時間労働による過労に間違いないと確信していました。夫の本当の労働時間を証明できるのは私しかいないという気持ちで、パソコンの記録、ラインのやりとり、カレンダーなどを元に夫のスケジュールを再現するのは精神的にもとてもつらい作業でした」(男性の妻)
代理人の白神優理子弁護士は「ソニーグループ全体の売り上げの7割が海外とされており(2019年度)、その中でドバイは中東とアフリカをカバーする最大のビジネス拠点となっている。しかし、この地域での活動が極めて過酷な労働実態にあることが明らかになった」と指摘した。
●ソニー「労災の防止、一層努めたい」
ソニーの広報担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に以下のようにコメントした。
「お亡くなりになった社員の方に対して心からご冥福をお祈りいたします。労働基準監督署の認定を真摯に受けとめまして、労災の防止や社員の健康管理に一層努めて参りたいと思っております。重ねて、認定に伴い、労働基準監督署の方からご指導いただくことがありましたら、真摯に対応していきたいと思っております」