「うつ」になりそうな従業員を事前に予測する――東京の人事支援会社が、そんなサービスを始めると報道され、話題になっている。
新サービスを開始するのは、人事支援会社「サイダス」。同社によると、約40万人のデータをもとに、うつ病などメンタルヘルス不全による休職者の勤務状況を分析。その結果、「月曜と火曜の欠勤が多い」「午後10時以降の残業が頻繁に続く」など、一定の勤務パターンを見つけたそうだ。
このような情報をもとに、同社は契約先の会社の勤怠状況をチェックし、うつ休職に陥りそうな従業員を予測し、会社側に警告するサービスを実施するという。
多くの企業にとって、うつ病による休職者を出さないことは大きなテーマの一つだろう。だが、企業には、従業員のうつを防ぐ「法的な義務」があるというべきなのか。労働問題にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。
●「会社の義務」は給料の支払いだけではない
「会社と従業員との間にあるのは、雇用契約です。その基本は、従業員は会社の指示にしたがって労務を提供する義務があり、他方、会社はその見返りとして従業員に対し給料を支払う義務がある、ということです」
このように今井弁護士は、会社と従業員の関係について説明する。
「しかし雇用関係による義務はそれだけに限定されず、会社は従業員の健康と安全に配慮して、相応の措置をとらなければならない義務を負っています。
これは、すべての使用者に課されている明確な法的義務であり、単なる努力義務ではありません」
では、会社には、従業員のうつを防ぐ義務もあると考えるべきなのか。
「うつ病の発症には、さまざまな原因があります。
その中には、職場におけるストレス、つまり長時間労働や不慣れな職種への配置転換、転勤命令、過大なノルマや上司・同僚との人間関係の悪さなども、含まれています。
会社としてはできる限り、従業員のメンタル面に過大な負担がかからないように、従業員一人一人へのきめ細かな配慮が求められます」
●「従業員の精神的健康に配慮していたか」がポイント
配慮が不十分だった場合は、会社に責任が発生する場合もあるのだろうか?
「仮に従業員がうつ病に罹患し、職場におけるストレスも原因の一端であると認定された場合は、会社が具体的にどの程度、その従業員の精神的健康に配慮した措置をとっていたかが、焦点となります。
裁判になった場合にはその点が検証され、もし会社が適切な措置をとっておらず、義務に違反していたと認定されれば、会社には損害賠償責任が発生します」
今井弁護士はこのように述べ、注意を促していた。人事支援会社が提供するサービスを利用するかどうかはともかく、従業員の状態をきちんと観察し、適切なケアをすることが、企業には求められているようだ。
【追記】データの数字について一部修正いたしました(2014年3月1日16時10分)