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いまも続く「過労自殺」 労災や損害賠償が認められる基準は?
過労自殺の悲劇は今も続いている

いまも続く「過労自殺」 労災や損害賠償が認められる基準は?

『過労自殺』。そんなタイトルの岩波新書が出版されてから、はや15年が経った。しかし、同書が警鐘を鳴らした過労自殺の悲劇は、今も続いている。

その実態は、遺族が会社に対して起こす損害賠償請求の裁判で明らかになる場合も多い。音響機器メーカー「JVCケンウッド」の元社員男性のケースはその一つだ。横浜地裁で9月10日に開かれた第1回口頭弁論で、遺族は「自殺の原因は長時間労働によりうつ病を発症したためだ」と訴えた。

遺族側の主張によると、男性は昨年12月以降、新商品開発の仕事に携わるようになり、職場や自宅での残業時間が月100時間を超えていたという。その後、男性は今年2月にうつ病と診断され、3月に自殺した。一方、会社側は「過去の業務と比較しても過酷な負担を課した事実はない。男性から病状の報告を受けた後、心理的負担を軽減させる措置を講じた」と、全面的に争う姿勢を見せているという。

過労自殺をめぐる裁判はこれに限らず、各地で繰り返し起きている。現在、労基署や裁判所はどんな基準で「過労自殺」を認定しているのだろうか。過労死・過労自殺問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。

●重視されるのは「長時間労働による心理的負荷」

「新認定基準(精神障害の労災の行政基準・平成23年12月26公表)によると、過労自殺が労災認定されるための要件は以下の3つです。

(1)うつ病などの対象疾病を発病していること

(2)対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

(3)業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」

――ポイントとなるのは?

「重視されるのは(2)のうち、長時間労働による心理的負荷です。厳密には伝えきれませんが、具体的に言うと、おおむね以下のどれかに当てはまる場合、原則として労災認定されることになっています。

(A)発症直前の連続した2か月間に、1か月あたりおおむね120時間以上の時間外労働をしている

(B)発症直前の連続した3か月間に、1か月あたりおおむね100時間以上の時間外労働をしている

(C)発症直前1か月に160時間以上、発症直前3週間におおむね120時間以上の時間外労働をしている

(D)配置転換など業務上の出来事(新認定基準でいうところの「中」と評価できるもの)の前後に100時間程度の時間外労働をしている」

●労災認定されれば、会社への損害賠償請求も認められやすい

――労災認定の基準と、会社への損害賠償請求を認める基準は違う?

「長時間労働が原因でうつ病などを発症、自殺に至り、労災認定がなされた場合には、民事の裁判において、原則として業務とうつ病発症との因果関係が推定されます。したがって、会社に対して遺族が行う損害賠償請求も認められることが多いです」

――逆に労災は認められなかったが、損害賠償請求は認められるというケースはある?

「労災認定されていない場合や新認定基準に当てはまりにくい場合……つまり、業務と発症との間に因果関係が認められないか、認められにくい場合でも、損害賠償請求が認められるケースはあります。

たとえば、労働者が業務と関係のないところで、うつ病に罹患していた場合であっても、会社が労働者のうつ病を知りながら、うつ病の労働者に対する配慮が足らなかったことによって、自殺に至ったと評価できれば、会社に対する損害賠償請求が認められます。裁判例としては、積善会事件(大阪地裁平成19年5月28日判決・判例時報1988号47頁)が参考になるでしょう」

十数年前と比べれば、「過労自殺」の認定例はずいぶんと蓄積され、認定基準もかなり整ってきているように思える。遺族らの気持ちを思えば、こういった悲劇は一刻も早く根絶してほしいものだが……。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

波多野 進
波多野 進(はたの すすむ)弁護士 同心法律事務所
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

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