いわゆる「変形労働時間制」の適用が無効だった場合、残業代の計算はどうなるのかが争われた裁判で、画期的な判決が出た。
羽田空港につとめる全日空の関係者を送迎するハイヤー会社の従業員3人が、未払い残業代(割増賃金)と付加金の支払いをもとめた訴訟の判決で、東京地裁(伊藤由紀子裁判長)は6月25日、原告側の主張を認め、会社側に対して、未払い残業代計1453万8323円・付加金計1300万209円全額の支払いを命じた。
●「変形労働時間制」の要件を満たしていなかった
原告は、両備グループのハイヤー会社「イースタン・エアポート・モータース」(東京都大田区)で配車業務を担当している男性3人。
原告代理人などによると、1勤務12時間労働を基本とする「変形労働時間制」のシフトで働いていたが、長時間労働に悩んで2017年9月、労働組合「プレカリアートユニオン」に加入して、労働条件の改善について、会社側と話し合いを続けた。
この団体交渉の中で、「変形労働時間制」の要件を満たしていないことがわかり、会社側もそのことを認めたが、1日8時間を超えた分の残業代の計算方法についてまとまらず、3人は2018年4月、東京地裁に提訴していた。
会見を開く原告側(2020年6月25日/弁護士ドットコム撮影)
●就業規則に始業・終業時間やシフト作成手続き、周知方法などを記載する必要がある
判決の枠組みは、(1)「変形労働時間制」は有効だったかどうか、(2)「変形労働時間制」が有効でなかった場合、残業代はいくらになるのか――だった。労働時間に争いはなかった。
東京地裁はまず、「変形労働時間制」をとる場合、就業規則に定めうえで、その中に始業・終業時刻や休憩時間、勤務の組み合わせの考え方、シフトの作成手続き・周知の方法を記載する必要があると指摘した。
同社の就労規則は、こうした「変形労働時間制」の記載をまったく欠いており、さらに原告たちが働く事業所の従業員に周知する措置もとられていなかったと認定して、「変形労働時間制」が無効だったと判断した。
●8時間を超えた部分の残業代は?
これによって、所定労働時間は1日8時間となるので、それを超えた部分は時間外労働になり、残業代(1時間あたりの給料✕1.25倍/深夜については✕1.5倍)が発生することになる。
会社側は、シフト表に定められた労働時間の対価として、月ごとに定められた賃金を仕払っており、1日8時間を超えた部分はすでに「1倍」の残業代を払っているといえるので、残り「0.25倍」を支払えば済むと主張した。
しかし、東京地裁は、会社側が支払ったのは1日8時間に対する賃金にあたり、8時間を超える部分についてまったく残業代が支払われていないことになると判断して、原告側が主張した「1.25倍」(深夜については1.5倍)の計算方法をとった。
●原告「非常にホッとしている」
この日の判決後、原告3人は東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見を開いた。原告1人、渡邉麻人さんは「こちらの主張が100パーセント通った。非常にホッとしている」と述べた。会社側は弁護士ドットコムニュースの取材に「コメントできない」とした。