不倫報道のあった俳優の東出昌大さんと女優の唐田えりかさんへのバッシングがすさまじい。出演していたドラマの降板やCM打ち切りの動きも進んでいる。芸能界でスキャンダルがあった場合、「CM降板違約金●億円」「テレビ局から損害賠償請求●千万円」など派手な数字で報道されることが常だ。実際はどうなのか。
●東出さん、CM打ち切りが進む
東出さんはホンダなど複数の大手企業のCMに出演していた。不倫が報じられると、4社が東出さんを起用したCM動画をサイト上から削除。1月27日、サンスターはCMの打ち切りを発表。また、フジ住宅はサンスポコム(1月28日付配信記事)の取材に「契約自体を打ち切り、今後は契約書にのっとって損害賠償請求することになります」と回答している。
一方の唐田さんも、出演ドラマに影響が出ている。現在放送中のドラマ「病室で念仏を唱えないでください」(TBS系)の降板が決定。また、オムニバス形式のドラマ「100文字アイデアをドラマにした!」(テレビ東京)の2月放送回で主演する予定だったが、スポーツニッポン(1月27日付配信記事)によると、テレビ東京内では「お蔵入りが確定的とみられている」とのこと。
このドラマで唐田さんは不倫する役を演じる予定だったそうだ。
●「東出さんは違約金請求されることになる」
フジ住宅は損害請求を明言したようだが、違約金請求の動きは拡大していくのか。実は、CM業界とテレビ業界とで、対応が変わってくる可能性がある。
はじめにCM業界について、制作会社のプロデューサーは「CMの出演者が不祥事を起こした場合、契約に基づいてほぼ間違いなく違約金の支払いが生じます」と証言する。
このプロデューサーによれば、出演者(所属事務所)はクライアント企業と出演契約書をとりかわす。契約書には「商品イメージの低下につながる行為の制限」が盛り込まれるのが通常だという。それに違反した場合には、契約に基づき違約金を支払うことになる。
具体的に「商品イメージの低下につながる行為」とは、不倫などのスキャンダルのほか、刑事事件を起こして逮捕されることも含まれるという。
「過去、クライアントが芸能人に5000万円や6000万円、億を超える違約金を請求したこともあったようです。イメージキャラクターに起用されている間、不祥事は絶対に起こせません。東出さんの事務所もクライアントから違約金を請求されることになるでしょう」
また大手広告代理店の社員も「CMに登用されることは、商品とその会社の広告塔になるということ。『商品イメージの低下』には多岐にわたる行為が含まれており、忖度の世界のテレビとは異なって、CMでは契約違反のペナルティーは重い」と話した。
●違約金より安い「タダ働き+制作費の肩代わり」
ただ、CM業界の仕事でも違約金が発生しない事例もある。
国内飲料メーカーが商品イメージキャラクターに人気お笑いコンビを起用し、販促グッズの制作やCM撮影を滞りなく終了。ところが、あと数日後に商品発売というタイミングで、このコンビの1人の「反社会的勢力との交際」という大スキャンダルが報じられる。
報道によってメンバーは謹慎、芸能活動の自粛を余儀なくされ、CM降板も決まった。
この飲料メーカー関係者によると、報道の直前に所属事務所が取った行動は、企業への報告と謝罪。そして、被害補償に関する次のような提案だった。
(1)すでに制作していた広告費用・販促グッズ費用の肩代わり。 (2)降板したコンビに代わって、同じ事務所所属の人気芸人をタダで起用。
上の(1)に関しては、問題のすべての責任はメンバーと事務所にあるとして、制作費用のすべてを事務所が負担したそうだ。
芸能界でいわゆる「バーター」と呼ばれているのが(2)だ。
上述の通り、CM業界では契約に基づき、違約金が発生する。しかし、事務所は人気芸人の代役を提案してきたという。さらに「まだどこにもバレてませんが、もうすぐ大物女優との結婚が予定されていて、会見も行う予定です。話題性から考えて、最高のタイミングでの起用になります」
事務所はCM出演料ゼロ、新しく作る広告・販促グッズ費用負担まで申し出た。普段なら足蹴にして断られる提案は、ここまでしてようやくメーカーに受け入れられた。もちろん、CMが放送されてしまった後にスキャンダルが発覚していたのなら、この提案も実現は不可能だった。
「スキャンダルがあった場合、事務所としては高額な違約金を支払うよりも、バーターで代役を立てようとします。迷惑をかけたテレビ局の次のシーズンに事務所の人気役者を必ずキャスティングするとか。上のケースのようなタダ働き+制作費の肩代わりという負担も、違約金にくらべれば安いものでしょう。今回損をしたとしても、企業との関係を継続することに利があると思います」(先のプロデューサー)
●「NHKはしっかり支払わせる」
では、テレビ局は違約金を求めてくるのだろうか。これは「ケースバイケース」(大手広告代理店社員)とみられる。
「バラエティー番組でもドラマでも、不祥事を起こした出演者や事務所に対して、テレビ局が違約金を支払わせたという話は聞いたことがない」(制作会社ディレクター)。「民放では違約金はないけど、NHKはしっかり支払わせると聞いています」(キャスティング会社経営)など、報道局や不祥事の内容によっても判断はわれるようだ。
違約金が発生しなかった事例について制作会社ディレクターは次のように語る。
「あるお笑い芸人が2019年に不祥事を起こして謹慎。出演している数々の番組もすべて降板しました。私の会社が制作にかかわる民放のバラエティー番組でMCを務めていましたが、その番組からも降板したんです」
このケースで違約金は発生しなかったという。
「収録もののバラエティー番組の制作費は1本500万〜2000万円かかる。新たに撮り直す作業の手間ヒマを考えれば、すでに撮り終えたものを編集したほうが楽です。この件でも編集作業で芸人の出演シーンをカットし、新たにナレーションを加えて対応しました」。
違約金は発生していないが、再度の編集作業にかかった100〜200万円の費用は事務所が負担したそうだ。「制作の現場はとにかく忙しいし、人が足りてない。番組がお蔵入りになって違約金をもらうことなんかより、番組に穴をあけずにスケジュールを進めさせたい。それが本音」。
結局、MCには同じ事務所の芸人が後釜に据えられた。
●テレビ業界は「契約書のない文化」
違約金の発生におけるテレビとCMの大きな違いは契約書の文化がないことにある。と先のプロデューサーは指摘する。
「バラエティー番組では出演者と契約書をかわすことはほとんどない。番組レギュラークラスでも書かない。MCクラスでやっと書くことがあるかなという程度。逆にCMなら、どんなに小さな案件でも絶対に契約書を書かせる」
ただし、最近は変化もみられるという。
「アマゾンやネットフリックスなど配信大手のオリジナル作品では、ドラマのクレジットに表示される出演者はエキストラをのぞいて全員が出演契約書をかわします。海外拠点ですから、日本の慣習より法律が優先される。それらのドラマに出演した人たちが不祥事を起こした事例を私は知りませんが、彼らがスキャンダルを起こした場合、その契約書にのっとって、損害賠償請求されるのではないでしょうか」
映像配信サービスは日本人の視聴環境を変化させただけでなく、日本の芸能界の文化にも変化を与えていたようだ。
●「不倫だってタレントのせいじゃなくて、騒ぐマスコミが悪い」
契約書の効力そのものに事務所が影響を及ぼしてくる事例を最後に紹介する。
ある映画に国民的人気女性アイドルグループのメンバーが出演することになった。出演契約書をグループの運営側に提出。契約書には「人気が落ちる行為をするな」という内容の条項があり、さらにその「行為」に該当する例のひとつとして「グループからの脱退」も含まれていた。
「グループを脱退すると、ファンが離れて如実に人気が落ちる。彼女の集客力を見込んで起用しているので、撮影から公開終了までの期間に脱退されると困るんです」(この映画の関係者)。
契約書を読んだ運営側の幹部は「脱退するから人気が落ちるんじゃなくて、マスコミが勝手に騒ぎ立てるから人気が落ちる。脱退だって恋愛だって不倫だってタレントのせいじゃなくて、騒ぐマスコミが悪いんだ」と主張し、「グループからの脱退」という項目の削除を要求してきたという。
「結局、項目を削除した契約書に書き直してサインしてもらいました。作品を作るときに、事務所の力が強いので契約書を書き直させるということになるんです」。
事務所優位の契約が結ばれてしまうところにも、日本の芸能界における事務所と制作サイドの力関係が反映されている。