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急増する「日本語学校」進むブラック化…契約書なし、低い給与に泣く講師たち
授業だけでなく準備も必要だ(撮影=松田隆、2019年9月)

急増する「日本語学校」進むブラック化…契約書なし、低い給与に泣く講師たち

外国人留学生のための日本語学校が急増している。8月22日の法務省告示による新規開設は29校で合計775校となった。10年ほど前に比べて、2倍近い学校数だ。法務省は年ごとの新規開設数を公表していないが、官報を遡って計算すると今年はすでに70校増えた計算。

急増する日本語学校では経営者による不法就労の援助などの犯罪や、劣悪な労働環境など、法人としての粗さが目立つ。日本語学校での勤務経験もある筆者が、その実態を伝える。(ジャーナリスト・松田 隆)

●2008年福田内閣での留学生30万人計画に始まった“粗製乱造”

日本語学校は在留資格「留学」が付与される留学生を受け入れ可能な日本語教育機関であり、法務省入国管理局が定めた告示基準を満たした機関を指す。その基準は詳細に規定されているが、設置者の国籍、法人の形態は問われず学校の設置という基準で考えればかなり緩い。

日本語学校が急増したのは2008年、福田内閣が留学生を当時の14万人から12年後の2020年に30万人に増やすプランを策定したのが原因。

大学等に進学する場合、最初の受け入れ先である日本語学校で学ぶ必要がある。留学生を増やそうとしても日本語学校が少なければボトルネックになってしまう。目標達成には間口を広げるしかなく、その結果、雨後の筍のように日本語学校が増殖したのである。

日本語教育機関が受け入れた学生数は2011年に2万5622人だったが2018年には9万79人と約3.5倍増(日本学生支援機構調べ)。留学生30万人計画が発表された2008年に395校だった日本語学校(日本語教育振興協会への登録数)は、およそ2倍になった。

これだけ増えると、遵法精神に欠ける者が出ても不思議はない。留学生への不法就労の手助け(入管難民法違反)、不法就労の斡旋(出入国管理法違反)などで逮捕された経営者の話がニュースを賑わせたのは記憶に新しい。誤解を恐れずに言えば、現在の状況は“粗製乱造”である。

●吉本興業なみ? 契約書なしで働け、いきなり給与未払い

急増する日本語学校では日本語教師の待遇の悪さも目立つ。

筆者は今年3月まで、ある日本語学校と業務委託契約を結び非常勤講師として勤務していた。45分の授業で報酬は1900円、時給換算で2533円。ファストフードのアルバイトよりはましであるが、90分授業を週に12コマ(相当ハードであるが)で週給4万5600円、月給18万2400円では自分1人が食べていくのが精一杯。

このため、どの学校に行ってもスタッフは圧倒的に女性が多かったのは、扶養家族が少ない者でなければ暮らしていけないということを示しているのかもしれない。 給与面では主婦のパートレベルでしかないのだから、それも当然であろう。

留学生の学費は年間60~65万円程度。法務省の告示で1クラス20人までと決まっているため、総額1200万円程度の予算の枠内でクラスに担任教師(多くは専任、常勤)をつけ、それに非常勤講師が加わるから、専任・常勤でも報酬はかなり抑えられている。

しかも多くの学校では生徒を集めた現地のエージェントに学費の3割程度をマージンとして支払う場合が多く、そうなると1クラス840万円程度の予算。

大学や高等専門学校等にある私学助成金(2018年度で大学生1人あたり15万4000円:日本私立学校振興・共済事業団 私学振興事業本部HPから)もない。早慶レベルの修士号を持つ専任教師は「とてもこの給料ではやっていけない」と嘆いていた。

こうして日本語学校はブラック企業化していく。

筆者は今年4月スタートで老舗の日本語学校と契約寸前まで行き、歓迎会にも出席した。そこで他の教師から聞かされたのは「契約書がない」「給料をもらうまで、金額が分からない」という事実だった。

責任者に聞くとあっさり認めたため、歓迎会後ではあったが契約を白紙に戻した。吉本興業が所属する芸人と契約書を交わさないことが話題になったが、日本語教師も似たような環境である。

●政策がもたらした「歪み」

今年4月から勤務を始めた別の日本語学校は、通告なしに最初の給与が未払いであった。

不思議に思って連絡したところ、給料日の2、3日後に「支払っていません」という通知を受けた。理由は振込先の口座番号を担当者が経理に渡すのを失念していたというもので(本人は否定)、それに対する謝罪もない。もちろん、すぐに契約を解除した。

日本語学校で働こうと考えている人はこのような労働環境もあり得ることを覚悟しておいた方がいい。

このような劣悪な労働環境でも日本語教師が供給されていくのは、単純に「先生」と呼ばれたいという者もいるが、意欲を持った学生の力になりたいという使命感を持った者も少なくないからである。人に教えるレベルにはない者が教師になっているという問題はあるにせよ、使命感を持った者が留学生を大学等に進学させているのも、また事実である。

急激な留学生増加政策が様々な面でひずみを生んでいるのは、実際に働いてみて痛感させられる。このブラック企業化が解消され、業界全体が浄化されるのが待たれる。

【プロフィール】
松田隆(まつだ・たかし) 1961年、埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業、ジャーナリスト。主な作品に「奪われた旭日旗」(月刊Voice 2017年7月号) ジャーナリスト松田隆 公式サイト:http://t-matsuda14.com/

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