高収入の職業というイメージがある医師だが、病院の勤務医は激務だとされる。昼間は次から次へと外来患者を診察し、入院患者も診て回らなければいけない。それに加え、夜間の当直勤務が入る日もあるし、休日に呼び出しがかかることもある。
全国医師ユニオンが2012年に実施した調査によれば、勤務医の約8割が当直が明けた翌朝、そのまま通常の1日勤務に入るのだそうだ。勤務医の労働時間は週70時間を超えるという国立保健医療科学院の報告(2006年)もある。
勤務医の過酷な労働環境がうかがわれるが、そもそも、病院や診療所に勤務する医師に労働基準法は適用されるのだろうか。医療現場の法律問題にくわしい鈴木沙良夢弁護士に聞いた。
●勤務医にも「労働基準法」は適用される
「勤務医も病院・診療所等で働いている以上は『労働者』です。したがって、労働基準法の適用があります。
しかし、医業を仁術とする考えが根強いためか、病院側と勤務医の双方ともに、労働基準法が適用されることについて、認識が希薄であるのが実情です。
背景には、医師数の少なさや経済的な理由から、多数の医師を確保するのが難しいという事情があります。病院側は、余裕のあるシフトを組むことができず、やむなく少数の勤務医による長時間勤務に頼っています」
鈴木弁護士は病院の勤務実態について、このように説明する。そうなると、労働基準法に違反している病院も少なくないということだろうか。
「そこは、ケースバイケースです。医師の勤務時間が長時間で、あいまいなものになりがちな理由の一つに、『当直』勤務があります。
労働基準法の法定労働時間は、1日8時間までと制限されていますが、勤務医が日勤と当直を行うと、この制限を超えてしまいます。
そのため、病院側は行政の許可を受けた上で、『当直は、1日8時間という制限の例外である“監視・断続的労働”(労働基準法第41条3号)に当たる』として、日勤・当直勤務を成立させているのです」
●当直の勤務実態によっては「労基法違反」もありうる?
その「監視・断続的労働」というのは、どういうものだろうか?
「『監視・断続的労働』は、身体への負担が少なく『ほとんど労働する必要がない勤務』とされています。だから、労働時間制限の例外として認められているのですね。
しかし、実際には当直の間も、通常の勤務と変わらない業務が行われていることもあり、現場の勤務医の負担はそれだけ大きいと考えられます」
つまり、当直中の勤務実態によっては、労働基準法に違反することもありうるということだろう。それにしても、泊まり勤務もあるうえ、週70時間以上も働くというのでは、仕事への集中力を保つのが難しくなりそうだ。
鈴木弁護士は「勤務医の長時間労働は、良質で安全な医療の確保に影響を与えかねない問題です。こうした状況を解消するためには、医師数増加や病院の経済的基盤改善のための制度などを検討する必要があるでしょう」と指摘していた。