職場のセクハラが原因で、精神的に追いつめられる女性は少なくない。とくに、上司からセクハラを受けた場合は、拒絶の態度を示すことは容易でないだろう。職場での自分自身の立場を考え、心のうちにためこんでいく。その結果、仕事をやめざるをえないような精神状況になる人もいるようだ。
弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、上司のセクハラが原因で退職したという女性の投稿が多く寄せられている。ある相談者は、職場でセクハラをしてきた元上司のことを2年たった今も「絶対に許すことができない」とつづっている。
この相談者は、最近になってようやく心に余裕ができた。いまでも間に合うなら、セクハラをした元上司に慰謝料を払ってもらいたいそうだが、時間がたっていても請求することができるのか。セクハラには、いわゆる「時効」はあるのだろうか。白川秀之弁護士に聞いた。
●上司への損害賠償請求は「3年以内」に
「違法なセクハラ行為によって、精神的な苦痛をこうむった場合、加害者に対して損害賠償を請求できます」
このように白川弁護士は切り出した。
「損害賠償請求の根拠としては、通常、民法709条の『不法行為』の概念を使います。今回のケースですと、セクハラがこの不法行為にあたりますね。しかし、セクハラをした上司に損害賠償を請求する場合、3年以内に権利を行使しないと、時効にかかってしまいます」
権利の「行使」とは、いったい何をさすのだろう。たとえば、「あなたはこんなセクハラをしたが、出方しだいで裁判に訴える」といった内容証明郵便を相手に送ることは、権利の「行使」といえるだろうか。
「『行使』というためには、訴訟を提起する、といった法的な手段をとることが必要です。単に内容証明郵便で請求するのは『催告』といって、時効の完成を引き延ばすだけの効果しかありません。その間に『行使』をしなければなりません」
つまり、内容証明郵便を送るだけではだめで、相手が請求に応じない場合は、提訴することが必要になるということだ。しかも、3年以内に行動をおこさないといけない。
●証言してくれる人は早めに確保したい
実際、早く動いたほうが、なにかとメリットが多いようだ。
「セクハラによる損害賠償では、被害者がセクハラ行為を立証しなければなりません。時間が経過すれば、関係者の記憶が薄れたり、証拠がなくなってしまう危険性も高くなります。
ただでさえ、セクハラは立証をするのが難しいのに、時間の経過でさらに難しくなるのです。そのため、時効にかかわりなく、早めに請求をすることが望ましいといえます」
とはいっても、精神的にダメージが大きければ、すぐに法的な手段を取ることは簡単でない。
「すぐに請求できない場合は、証言してくれる人を確保したり、された行為を記録するなど、可能な限り証拠を収集しておくべきです」
では、もし3年の時効が過ぎてしまった場合、何か手立てはないのだろうか。
「セクハラの場合、会社の安全配慮義務違反を理由にして、会社に対して損害賠償請求 をすることもできます。この場合には、時効期間は10年になります」
10年のうちならなんとかなりそうだが、それでもやはり、証言の確保やセクハラ行為の記録は早めにやっておくのがいいのだろう。