大手メーカーに就職したはずなのに、入社後数カ月で子会社に転籍――。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、長男がそのような境遇に置かれていることに不満を抱く母親からの投稿があった。
母親によると、長男は大学院(工学部系)のゼミ推薦で大手メーカーに就職が決まり、「情報システム部」に「予約配属」という形で、所属が予定されていたという。しかし、組織改編で情報システム部が廃止になったため、入社してまもなく、子会社に「転籍」して働くことを告げられた。
母親は、転籍は「片道切符」だとして、「これは『就活詐欺』のようなものです」と不満を打ち明けている。この母親の指摘が事実だった場合、入社前には伝えていなかった子会社への「転籍」をおこなうことに問題はないのだろうか。野澤裕昭弁護士に聞いた。
●労働者の「同意」があるかが重要
「大いに問題があると思います」と野澤弁護士は指摘する。なぜだろうか?
「転籍とは、雇用先の会社を退職して他の会社に籍を移すことを言います。この場合、雇用先会社との間で労働契約を終了させ、転籍先の会社との間で新たに労働契約を成立させることになります。
転籍する方法としては、2つあります。ひとつは現労働契約の合意解約と新労働契約の締結という方法で、どちらの場合でも、労働者の同意が必要です。
もうひとつは、労働契約上の使用者としての地位を譲渡する方法です。この場合も、譲渡について労働者の承諾(同意)が必要となります」
相談者によれば、事前に「同意」を求められていなかったようだ。
「子会社に転籍させるには、相談者の長男の同意がなければ、法的には無効です。会社は組織改編で予定していた配属先がなくなったことを理由としています。しかし、それが事実だとしても、同意なしに転籍を強要することはできません。
いったん雇用した以上、労働者を自社のなかで可能な限り処遇していく責任が、使用者にはあるからです。
職種限定・部門限定社員として採用された中途採用のケースでは、当該職種・部門がなくなった際に、契約を終了させることがあります。しかし、新卒者の場合は、社内でいろんな職種を経験して一人前になっていくことが前提とされています。中途採用者のような職種限定は認められないでしょう。
配属先がなくなったとしても、あくまで入社当初の配属先にすぎず、会社は他の配属先を用意するなどして、雇用を継続する義務があります。
相談者のケースでは、転籍を強要することはできず、子会社に行くことを拒否することができます」
野澤弁護士はこのように述べていた。