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安倍政権で緩和が進む? 正社員の「解雇規制」とはどんな制度か?

安倍政権で緩和が進む? 正社員の「解雇規制」とはどんな制度か?

安倍政権が発足させた有識者会議で「労働力の流動化」が大きなテーマとなっている。成長産業へ労働力を移動させて経済を活性化しようという狙いだが、そのために企業や団体で働く労働者を今よりも解雇しやすくするべきだという意見が出ている。

日本では、正社員については裁判所の判例にもとづいて、簡単にはクビにできない「解雇規制」がとられている。働ける期間が限定されている契約社員や派遣社員、臨時雇用という建前のアルバイト社員がたやすく職を失う一方で、いったん正社員になれば安定した雇用が保証されていた。

この正社員を守る砦となっている「解雇規制」とは、どんな規制なのだろうか。他の雇用形態で働いている人と比べて、正社員は規制により何が守られているのだろうか、労働問題に詳しい古川拓弁護士に聞いた。

●「解雇規制」は、使用者の「自由な解雇」から労働者を守っている

「解雇規制とは、『使用者が労働者を解雇するためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければならず、これに反する解雇は無効である』という法律や判例理論のことです。労働契約法16条や日本食塩事件最高裁判決などの裁判例によって根拠づけられています。

具体的には、整理解雇(いわゆるリストラ)や懲戒解雇などの場面において、使用者の自由な解雇から労働者をまもる歯止めとなっています。労災療養中の解雇制限(労働基準法19条)も広い意味では同じ趣旨に基づくと言ってよいでしょう」

古川弁護士はこのように「解雇規制」の意味について説明する。そのうえで、「解雇規制が適用される範囲」について、次のように述べる。

●契約社員やアルバイトは、正社員よりも立場が弱い

「契約社員・パートタイマー・アルバイトといった非正規雇用労働者でも、契約期間中であれば解雇規制が及び、契約期間中の自由な解雇は認められません」

つまり、非正規社員も契約期間中は「解雇規制」が及ぶということだ。しかし実際には、契約期間が終わるタイミングで「契約終了」となれば、実質的に職を失うことになる。その点について、古川弁護士は次のように説明する。

「契約期間終了時に『雇止め』を受けてしまえば職を失う、という点では、正社員の方よりも立場が弱いと考えられています。もっとも、労働契約法18条や『雇止め法理』などによる保護があり得ますので、簡単にあきらめるべきではありません」

●正社員は退職するまで「解雇規制」で守られている

では、正社員の場合は、どうなのだろうか。

「正社員の方にとって、解雇規制との関係で一番大きいのは、正社員が『期間を定めない雇用』であることです。つまり、定年制度がない限りは雇用契約期間が終了しないのですから、退職時まで常に解雇規制によって守られている、ということになります」

すなわち、正社員は定年まで「解雇規制」により守られているので、会社が解雇しようとしても簡単には認められない傾向があるのだ。

「また、それ以外にも、たとえば整理解雇の際には『正社員を優先して残すべき』という判断が働いたり、懲戒解雇の際には『不利益が大きいこと』や『これまでの実績』『改善の可能性』も考慮されるため、解雇が無効と判断されやすい傾向があります。そして、解雇が無効になった場合、使用者としては、その正社員の方に対して、退職金の上積みなどによって自主退職をしてもらうよう交渉する必要が出てきます」

このように正社員の解雇は難しいと、一般的にはいえるようだ。

「したがって、雇止めのない正社員は、解雇規制によって、非正規雇用の方と比べて解雇トラブルの際にも立場が強く、より安定した地位を持っているといえます」

解雇規制はこのような制度だが、いま安倍政権のもとで変更される可能性が出てきた。働く者にとっては直接、自分の身にかかわる問題だけに、議論の行方をしっかり見守っていく必要があるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

古川 拓
古川 拓(ふるかわ たく)弁護士 弁護士法人古川・片田総合法律事務所
弁護士法人古川・片田総合法律事務所 代表。2004年弁護士登録。京都弁護士会・過労死弁護団全国連絡会議 所属。特に過労死・過労自殺・労災事故などの労災請求・損害賠償請求事件に力を入れ、全国からの相談に応じている。著書に「労災事件救済の手引 - 労災保険・損害賠償請求の実務 -」(単著),「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A: 知っておきたい66の法律知識」(共著)など。

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