経済誌「週刊東洋経済」の3月4日発売号に掲載された「ユニクロ」の記事が大きな反響を呼んだ。日本の流通業界をリードする人気企業だが、記事によれば、新卒社員の3年内離職率はここ数年、5割前後で推移しているのだという。
これは極端な例だとしても、入社してまもない社員が辞めてしまうことは少なくない。時間と費用をかけて新入社員に仕事を覚えてもらっても、短期間で辞められては企業にとって大きな損失だ。実際、昨年末に国が企業向けに行った「若者を辞めさせない研修」は大好評だったそうだ。
離職率を気にするあまり、会社が退職希望者を無理に引き留めようとするケースもあるようだ。ある教育関連企業の社員は退職を申し出たとき、「退職理由書」という書類に詳しく記入して提出するよう要求された。事情を詳細に書けば転職活動を妨害されそうだし、逆に簡単に書くと「書類不備を理由にして、退職手続を進めてくれないのではないか」と心配している。
そもそも社員が会社を辞めるとき、退職理由を事細かに説明する義務はあるのか。「一身上の都合により」だけではダメなのだろうか。労働問題に詳しい野澤裕昭弁護士に聞いた。
●退職理由は「一身上の都合」で十分
野澤弁護士は、「労働者が退職するに当たり、使用者(雇用主など)に退職理由を申告する義務は労働法上まったくありません。退職理由は『一身上の都合』で十分です」と単刀直入に述べる。その上で、次のように理由を説明する。
「労働法は、使用者の方に解雇理由の記載を含む『退職証明書』を出す義務を負わせているだけです(労働基準法22条)。民法上も、期間の定めのない雇用契約では、当事者はいつでも解約の申し入れをすることができると定められており、解約理由は問われていません(民法627条1項)」
つまり、社員が会社に退職を申し出るとき、その理由を説明する義務はないということだ。野澤弁護士は、さらに解説を付け加える。
「労働法は、強制労働や借金、強制貯蓄といった方法で、使用者が労働者を職場に繋ぎ止めてきた悪しき慣習を排除しています。よって、退職理由を詳細に述べさせることは、この繋ぎ止めを誘発するものでその観点からも許されません。
なお、転職先での競業避止義務違反(退職した従業員などが同業他社へ就職すること)、営業秘密の漏えいといったことが問題となることもあり得ますが、これは別問題でそれぞれ独自の要件があれば責任が問われるでしょうが、だからと言って退職理由を詳細に書かせる根拠にはなりません」
●「小手先の引き留め策は効果はない」
一方で、企業からすれば、せっかく新人教育に費やしたコストを回収する前に社員に辞められると、大きな痛手になるかもしれない。しかし、この点に関しても、野澤弁護士は次のように厳しく指摘する。
「企業がせっかく教育したのに早期退職されるのは損失と考えている様ですが、そもそも人事管理、将来展望など若者の人心掌握を自ら見直すのが先ではないでしょうか。小手先の引き留め策は効果はないと思います」
近年、新人社員でなくとも、転職はもはや他人ごとではなくなっている状況になりつつある。政府内では転職がしやすい社会環境を整備しようとする動きもあると言われている。野澤弁護士の言うように、企業は「小手先の引き留め策」をせずに、魅力的な職場を地道に作るほかないのではないだろうか。