休日、家でゴロゴロしていたら、携帯のメール着信音が部屋中に響き渡る。差出人は、勤務先の上司だ。内容を確認すると、取引先からクレームがあったという・・・。
当然、大事な取引先に迷惑をかけるわけにはいかないので、すぐに上司と対応について相談し、ひとまず相手に連絡をいれる。社会人となれば、こんな経験の一度や二度はあるだろう。
このように、せっかくの休日に、仕事がらみの電話やメールを対応した場合、その分の給料はどうなるのだろうか。たとえば、数分程度の電話やメールを1回だけ送信した場合でも、「手当て」はもらえるのか、労働問題にくわしい靱(うつぼ)純也弁護士に聞いた。
●会社や上司の「指揮命令下」に置かれたら、労働時間にあたる
「具体的な状況にもよりますが、上司から取引先などに連絡を入れるよう求められた今回のケースであれば、労働時間にあたり、会社はその時間分の賃金を支払う必要があります」
靭弁護士はこのようにズバリ述べる。そのうえで、次のように判例をあげて説明する。
「判例では、『労働時間か否かは、労働者の行為が使用者(会社)の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより、客観的に定まる』とされています。
つまり、状況しだいでは、労働時間と評価できないケースがあるということです。たとえば、電話やメールに対応するかどうかが、労働者の自由であるなら、労働時間にあたらないことになります」
逆にいうと、会社からの電話やメールに時間外でも対応するようあらかじめ指示されている場合や、至急会社に連絡するよう指示する上司からのメールに対応した場合は、労働時間にあたるということ?
「それらのケースは、『使用者の指揮命令下に置かれた』といえ、労働時間にあたると考えられます」
●会社は労働時間を正確に管理する必要がある
冒頭のサラリーマンが、休日にクレーム対応した時間は、労働時間にあたるということだ。そして、労働時間にあたるのであれば、会社はその時間分の賃金を支払う必要がある。ほかにも、「法律や就業規則により支払う必要がある場合は、時間外割増賃金なども発生します」(靭弁護士)という。
さらに靭弁護士は次のように説明を加える。
「そもそも、会社は労働時間を正確に管理する必要があります。たとえば、『10分未満の残業時間は最初からカウントしない』というような取扱いをすることはできません。
もっとも、1カ月の労働時間を算定する際に、『30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる』ことは通達で認められていますので、結果的には賃金が支払われないこともありえます」
携帯やスマホなど、連絡手段が充実したおかげで、何かあってもすぐに連絡が取り合えるようになった。一方で、息つく暇もない状況になることもある。このあたりの線引きは、少なくとも労働時間という観点で、はっきりさせておいたほうがよいのではないだろうか。