たった1回、30分の遅刻をしただけで、給与を14%もカットされたのは不当だーー。神戸市の郵便局で働く契約社員の30代男性が、日本郵便を訴えていた裁判が8月、和解に至った。
報道によると、男性は2012年7月にうっかり寝坊し、始業5分前に職場に遅刻する旨を連絡した。だが、その日の約30分の遅刻は「無届」扱いにされた。さらに、そのことを理由に、1460円だった時給を半年の間、1250円に下げられたという。元の時給と比べると、14%のダウンだ。
男性は、このような減額は不当だとして、半年間の減額分にあたる約24万5000円を支払うよう日本郵便に求め、裁判を起こした。結局、日本郵便が21万5000円を男性に支払うことで、和解が成立したという。
今回の裁判は途中で和解が成立したため、判決が下されなかったわけだが、一般論として、1回の遅刻を理由に賃金を下げたらアウトなのだろうか。労働問題にくわしい山田長正弁護士に聞いた。
●たった1回の遅刻で賃下げするのは「違法」?
山田弁護士は、「一般論ですが」と前置きしたうえで、次のように述べる。
「たった1回、30分ほど遅刻しただけで、一方的かつ継続的に、賃金を10%以上も減額されるのは、ずいぶんと厳しい印象です。遅刻が業務に及ぼした支障にもよりますが、そのような減額は違法となる可能性が高いでしょう」
すると、今回の裁判でも、もし和解がなかったら男性側が勝っていた?
「その裁判については、詳細が分からないので、一概に結論を申し上げられません。
ただ、マスコミ報道によると、会社側は『就業規則に基づき賃金を減額した』と主張していたようです。
一般的には、従業員に勤務上の問題点がある場合、就業規則に基づいて賃金を減額できる場合もあり得ます」
●賃下げが認められる場合とは?
どんな場合なら、1回の遅刻を理由にして、継続的に賃金を下げることができるのだろうか?
「従業員本人の同意があるなら、賃下げは可能です。もっともこの場合でも、会社が賃下げについて適切な説明を行った上で、従業員の『真意の同意』を得ていないと、無効になる可能性があります。
一方で、従業員の同意がないと、就業規則に基づいて賃金を下げるとしても、無条件に認められるわけではありません」
賃下げが認められるかどうかのポイントは?
「賃下げの『額』や『期間』など従業員が被る不利益と、賃下げの必要性・賃下げ理由を比較したうえで、そのバランスが取れているかどうかが問題です。
もし、従業員の被る不利益が重すぎる場合、会社が『人事権を濫用した』と評価され、賃下げが違法と判断される場合もあります」
山田弁護士はこのように述べていた。
1回の寝坊で約24万5000円というのは、さすがに大きすぎるペナルティだったのかもしれない。