昭和を代表する人気コメディアン、仲本工事さんが10月に急逝しました。仲本さんは、妻で演歌歌手の三代純歌さんとは事実婚だったことで知られています。
一方、仲本さんは三代純歌さんを含めて、これまでに3回結婚しており、前妻との間に実子が2人いると報じられています。
遺言書の有無などは不明ですが、一般的に事実婚では相続はどのように定められているのでしょうか。また、前妻との間に実子がいる場合、遺産の相続はどうなるのでしょうか。加藤 寛崇弁護士に聞きました。
●「一切相続できない」のが原則だが
——事実婚や内縁関係でパートナーが亡くなった場合、残されたパートナーは一般論として、遺産を相続できますか?
事実婚・内縁関係というのは、「実態としては夫婦だが、婚姻届を出していない関係」ということになります。
この場合、遺族年金の受給など配偶者と同じように扱われる場面もありますが、遺産の相続に関しては一切の権利がありません。そのため、遺産は一切相続できません。
——もしも、残された事実婚や内縁関係のパートナーが遺産相続できるとして、何か条件はありますか?
事実婚・内縁関係のパートナーに相続権がないのは、法律・判例で法律上の配偶者に相続人が限定されているからであり、事実婚・内縁関係の実態によって左右されるわけではありません。そのため、死後に何をしても相続はできません。
しかし、生前に亡くなったパートナーが、遺言で、全財産をパートナーに遺贈すると定めていれば、その遺言に沿って全遺産を受け取ることはできます。事実婚・内縁関係で、自分が亡くなった後のパートナーの生活を考えるなら、きちんとあらかじめ遺言を残しておく方が望ましいです。
もっとも、遺言を残した場合でも、他に法律上の相続人がいれば、その人にも遺産に対する最低限の取り分(遺留分)があり、その結果、内縁かどうかで最終的に受け取ることのできる遺産が変わることはあり得ます。
尾藤イサオさんと三善えいじさん
— 三代純歌 (@midai_junka) December 27, 2020
来店〓 pic.twitter.com/mUGhl9FBZq
●子どもがいた場合には?
——子どもがいた場合はどうなりますか?
亡くなった人に実の子が1人いた場合を想定してみます(子どもが複数でも結果は変わりません。)。
内縁の妻に「全財産を遺贈する」という遺言があっても、子どもには遺留分があるので、遺産のうち50%分の金銭を支払うよう内縁の妻に請求できます。そのため、遺留分の請求がされた場合、内縁の妻が遺産から確保できる財産は50%相当になります。
他方で、婚姻届がされている妻に「全財産を相続させる」という遺言があった場合、子どもの遺留分は本来の相続分(2分の1)の2分の1なので、遺留分として請求できる金銭は遺産のうち25%分にとどまります。そのため、妻が遺産から確保できる財産は75%相当になります。
——事実婚カップルが相続について気を付けるべき点があれば教えてください
このように、遺言できちんと対策をとっていても、内縁・事実婚のパートナーは保護が弱くなる面があります。内縁・事実婚を選択するかどうかは個々人の判断ですが、そうした点を十分に考慮すべきです。
現状では、残すほどの遺産がないカップルか、あるいは、パートナー双方ともに自分の財産で生活できるカップルでないと、内縁・事実婚を選択するのは少なくともどちらか一方に不都合・不利益が生じ得ることになります。実際にも、内縁・事実婚を選択しているのはそのようなカップルが多いように感じます。