自分の子どもではないのに、養育費の支払いを続ける彼氏をやめさせられないかーー。そんな相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。一体、どんな事情があるのでしょうか。
相談者によれば、彼氏には離婚歴があり、元妻との間に2歳の子どもがいるそうです。離婚後は養育費を支払っています。しかし最近になって、彼氏は「本当は、自分の子じゃない。父親は別の男」と話しているそうです。
そこで相談者は「DNA鑑定などをしてハッキリさせたい」と考えています。彼氏の子どもでないなら養育費を支払う義務もない、という主張です。
男性(彼氏)が今後、養育費を支払わないことは認められるのでしょうか。増田勝洋弁護士に聞きました。
●自分の子でないと主張する「嫡出否認」の訴え
ーー「自分の子ではない」と、どのように主張すればよいのでしょうか
婚姻中の夫婦の間に出生した子は嫡出子と推定されますので(民法772条)、その推定を 覆し、夫が自分の子ではないと主張するためには「嫡出否認の訴え」(民法774条、775条)を起こす必要があります。
しかし今回のケースで、男性は養育費を2年半以上支払っています。残念ながら、この訴えを起こすことはできません。
ーーなぜですか
法律上の父子関係は早い時期に安定させるべきという考えから、嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知ったときから1年以内に限られるからです(民法777条)。
●「親子関係不存在確認」の訴えも
ーーその他の請求はできないのでしょうか
嫡出子と推定されない事情があれば、「親子関係不存在確認の訴え」を提起できます。
たとえば「夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情」(最高裁判所平成26年7月17日)があるケースでは、実質的に嫡出の推定が及ばない場合として、親子関係不存在確認の訴えを提起することができると考えられています。
ーー具体的には、どのような状況ですか
婚姻中、事実上の離婚状態にあったとか、仕事などの事情で遠隔地に居住していたなどの理由から、夫婦がお互いまったく行き来がなかったような場合が考えられます。
ーー今回のケースでは、親子関係不存在確認の訴えが良さそうですね
そうかもしれません。今回の事例でも、男性が元妻と結婚している間、そのような状況があったと言えるのであれば、親子関係不存在確認の訴えを提起して父子関係を争うことができます。
●あまりに弱い「DNA鑑定」
ーー直接的な証拠となるDNA鑑定が、一番の証拠ではないのですか
いえ、そうではありません。
前述した裁判例は、夫と子との間の生物学上の不知関係が認められないことが科学的証拠により明らかであっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではない、としました。
つまり、たとえDNA鑑定で父子関係が否定される結果が出ても、それだけでは親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできないと裁判所は判断したのです。
妻が夫の子を懐妊できないことが明白な事情がない限り、たとえDNA鑑定で父子関係が否定される結果が出ても、法律上、父と子の関係を否定する手段はないことになります。