東京都文京区の自宅で妻を殺害したとして殺人罪に問われていた講談社の元編集次長の男性被告人について、東京高裁は3月28日、東京地裁の保釈決定を取り消したと報じられた。
男性は6日、東京地裁で懲役11年(求刑懲役15年)が言い渡され、7日に控訴。弁護人は22日に保釈請求し、地裁が27日、800万円の保釈保証金で保釈を許可していた。地裁の保釈決定が報じられると、「殺人罪で実刑判決を受けた人でも、保釈になることがあるのか」といった声が相次いでいた。
弁護士はどうみるか。裁判官出身の田沢剛弁護士に聞いた。
●地裁の保釈決定は「極めて異例」だった
ーー高裁で取り消されたとはいえ、地裁の保釈決定は驚きをもってみられたようです
我が国の刑事訴訟法において、保釈は、重罪であるなどの一定の除外事由に該当しない限り、被告人の権利として認められており(同法89条)、除外事由に該当した場合でも、裁判所の裁量による保釈が認められています(同法90条)。
しかしながら、他方で、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは、すでにした保釈の効力が失われるとともに(同法343条)、上記の権利保釈も認められておりません(同法344条)。
ーーなぜでしょうか
このような判決の宣告がなされると、無罪の推定に重大な疑問が生じるとともに、被告人の逃亡の恐れも飛躍的に増大すると考えられているからです。
こうしたことから、情状酌量の余地が大きく執行猶予も予想される殺人事件ということであればいざ知らず、そうでない場合に裁量保釈を認めるなどということは、極めて異例というほかありません。
●「懲役11年の実刑判決が出ていることの重み」
ーー地裁と高裁、それぞれの決定をどのようにみましたか
人質司法に対する批判もあってか、最近の裁判所では、被告人の身柄拘束を認めない決定を出す傾向が大きくなっているのですが、これは、令状審査を担当することが多い若い裁判官が、古い感覚に捉われずに思い切った判断をしていることの顕れではないかとも考えられます。
ただ、今回の件で、高裁が地裁の保釈決定を取り消したのは、裁量で保釈を認めるための事情よりも、やはり懲役11年の実刑判決が出ていることの重みの方が大きかったということなのではないでしょうか。