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捜査官がひき逃げで死亡した「小学生の遺品」紛失、証拠リストも破棄…責任問題は?
画像はイメージです(xtspirit/PIXTA)

捜査官がひき逃げで死亡した「小学生の遺品」紛失、証拠リストも破棄…責任問題は?

埼玉県熊谷市で約10年前に起きた死亡ひき逃げ事件をめぐって、埼玉県警が、被害者の小学生の男の子が身につけていた腕時計を遺族からあずかったあと、紛失するという不祥事があった。

報道によると、当時捜査を担当した元警部補が、押収された証拠品などのリストを破棄していたことも判明している。そのリストには、腕時計の記載もあった。元警部補はすでに退職しており、「実態にあわせて書類をつくった」と話しているという。

証拠品リストを破棄したとして、県警は、元警部補を公文書毀棄の疑いで書類送検する方針ということだ。では、証拠品リストに入っていた腕時計を紛失した責任は、どうなるのだろうか。松岡義久弁護士に聞いた。

●国家賠償法に基づく損害賠償責任がある

「刑事訴訟法では、遺留物や所有者、所持者、保管者が任意に提出した物をあずかること(領置)ができると定めています。捜査機関が領置すると、必要性がある限りは返還(還付)を拒否できますが、捜査が終わり、必要性がなくなれば、提出者が所有権を放棄している場合などを除いて還付を受けることができます。

捜査機関が証拠品の任意提出を促して、領置するという手法は、犯罪捜査の証拠収集ではかなり多くおこなわれています。問題となっている事件では、報道を見る限り、県警において、遺族から所有者(被害者の相続人)や保管者として遺品の腕時計の任意提出を受け、領置したと考えられます」

松岡弁護士はこう述べる。証拠品として預かった物を紛失した場合、その責任はどうなるのか。

「先ほど述べたとおり、捜査機関には、任意提出を受けて領置した物を最終的に返還する義務があります。したがって、それを紛失すれば、捜査機関(県)には国家賠償法に基づいて、損害を賠償する責任が発生します。

具体的にはその物の時価相当額の賠償ということになります。今回の腕時計は、遺族にとって大切な遺品でしょうから、腕時計の時価に加えて、精神的苦痛に対する慰謝料が認められる余地もあります」

証拠品リストを破棄した責任についてはどうでしょうか。

「証拠品リスト(押収品目録交付書)は、公務所が使用の目的で保管する文書にあたりうるので、これを隠匿したり、破棄する行為は公用文書毀棄罪(刑法258条)に該当する可能性があります。また、当時、公務員だった捜査官が、事実に反する押収品目録交付書を作成したことは、虚偽公文書作成罪(刑法156条)に該当する可能性があります。もちろん、現役の公務員であれば、内部的な処分もあるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

松岡 義久
松岡 義久(まつおか よしひさ)弁護士 宮島綜合法律事務所
横須賀市内(京急横須賀中央駅徒歩5分、裁判所徒歩2分)で事務所を共同経営するパートナー弁護士。京都大学法学部卒、警察庁(国家Ⅰ種)を退職後、2回目で旧司法試験合格。相続、交通事故、債務、離婚、犯罪被害者支援、中小企業、行政のトラブル、顧問など幅広い分野を専門に扱う。

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