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「こんな人生は、私のものじゃない」ーー女性が「我慢の限界」を超えて「熟年離婚」を決意するタイミング
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

「こんな人生は、私のものじゃない」ーー女性が「我慢の限界」を超えて「熟年離婚」を決意するタイミング

結婚してから数十年。平和な家庭を築いてきたはずだった。なのに、ある日突然、配偶者から「離婚したい」と切り出されてしまう――。

そんな「熟年離婚」は、もはや珍しいものではなくなったが、既婚者にすれば誰しも「他人事」で片付けられない危機感があるのではないだろうか。   せっかく長年連れ添ってきた夫婦がなぜ「熟年離婚」に至ってしまうのか。離婚案件を数多く手がけてきた広瀬めぐみ弁護士に、その理由をたずねると、「いわゆる『男は仕事、女は家庭』という既存の価値観に抑圧されていた女性の我慢が限界を超える時が来るから」と明快な答えがかえってきた。

一体なぜ、女性たちは最後の最後で、反撃に出るのか。熟年離婚の実情を広瀬めぐみ弁護士に聞いた。

●「男は仕事、女は家庭」が我慢の限界をむかえる時

数年前、広瀬弁護士の元を訪れた40代半ばの女性は「こんな人生は、私のものじゃない」として離婚を望んだという。話を聞いていくと、夫は「男は仕事、女は家庭」という従来の固定的役割分担の価値観の持ち主であり、共働きにも関わらず家事・育児の全てを妻に押しつけているという。

気に入らないことがあれば妻を暴力で威嚇したり、無視したりというモラハラを繰り返す男性であることがわかった。夫との愛情のない生活で疲弊した妻には、すでに他の男性の存在もあった。

広瀬弁護士は「熟年離婚を類型化するのは難しいですが、離婚を望む女性の話を聞くと、『男は仕事、女は家庭』という意識が強い夫に対する長年の不満を感じることが多いですね」と語る。

最近では共働きのケースも多く、社会的にも経済的にも同等の立場にある妻が、家庭内での一方的な家事・育児負担に嫌気がさし、離婚に至ることも多いという。『男は仕事のみ、女は家庭も』という新しいスタンダードに女性が我慢ならなくなっているという側面がある。

ところで、厚生労働省の平成21年の調査によれば、離婚件数全体の約16%が同居期間20年以上のベテラン夫婦の離婚だ。この約40年間で増減はありながらも、昭和45年に比べ、約8倍も増えている計算だ。

実際、広瀬弁護士の元にも、結婚20年を超える40代半ばから50代半ばの男女からの相談が数多く寄せられている。熟年離婚と一言で言っても、中身はさまざまにあるが、ある特徴が見出せるという。

女性側から離婚を申し出るケースで目につくのが、冒頭の女性のように「家庭における男女間の不平等さ」に端を発するケースだ。「男は仕事、女は家庭」という発想で、育児や介護も妻が負担し続けた結果、離婚にいたってしまうというのだ。

「私自身も、弁護士になる前には専業主婦として育児をしていた期間がありますし、『家のことは、女の仕事』という考え方は、身に覚えがあります。今の若い世代とは違い、現在40代半ば以上の世代の女性は、自覚しないまま抑圧される傾向があるのです。

ただ、積もり積もった我慢はいつか爆発します。それが離婚へと向かうのが熟年離婚の特徴だと思います。

女性の社会進出が進んだこと、離婚が社会的に認知され恥ずかしいという感覚がなくなったこと、年金分割が認められる等して専業主婦であっても最低限の経済的基盤が整うようになったこと等、女性の離婚を後押しする事情も相まって、女性はもはや我慢をしません」

では、「爆発するとき」が、なぜ40代半ば以降なのだろうか? 広瀬弁護士は「40代半ば以降、自分の『最後』がはっきりと見えるからではないか」と指摘する。一定の年齢に達し、配偶者やその親の介護が視野に入ってきたとき、「この人達の世話は無理」と思い至り、我慢の限界を超えることが多いようだ。

また、子どもが大学に進学するなど、手が離れるタイミングも、離婚に踏み切る契機になるという。

●「離婚したい」と言われないために

ところで、相手から「離婚したい」と言われたとき、何かできることはあるのだろうか? 

「もう間に合わないことが多いと思います。例外はありますが、最終段階に入っていることが多いですから」

きっぱりと言い切った後、広瀬弁護士はこう続けた。「ただ、それまでに相手からサインが出ているはずなのです。相手が悩んだり、苦しんでいる時、それを敏感にキャッチして軌道修正しなくてはならない。

それが無理でも、相手が『離婚したい』と伝えてきた時に、真摯に向き合い話を聞く。そうすれば、修正の方向に持っていくことも絶対に無理とは言い切れません」

実際に、関係が修復されたケースが若干あるという。それは、離婚を突きつけられた側の夫が真摯に変わろうとしたケースだ。

離婚を切り出された夫は、とりあえずすべて言われた通りにした。妻に対する態度、子に対する態度、その全てを妻の要求通りに受けいれ、その態度には真剣さが伴っていた。いったん離婚は回避されたが、その後の結果はまだ出ていない。

どちらか片方が、あるいは双方ともに不満を抱く関係を、「結婚」に縛られて継続することが100%正しいとは一概に言い切れない。かといって離婚は大きな損失を伴う。そもそも、離婚を切り出されないようにするには、どうすればいいのか。

「簡単なことの積み重ねが大切なのだと思います。小さなことでも『ありがとう』と言ったり、月に1回は2人で出かけるとか。恋愛していた時期の甘いものを少しでも維持する努力をすること。

つまり、相手への関心を持ち続けることです。関心があれば、相手が発する『サイン』を見逃さずにすむ。熟年離婚に限らず、コミュニケーションが不足すれば、離婚の可能性は高くなっていきます」

●主婦から一念発起して弁護士に

ところで、広瀬弁護士は「男は仕事、女は家庭」という既存の価値観の影響を強く受けていることを自覚しているそうだ。

結婚後、一旦は仕事を辞め専業主婦となったが、夫や大学の先輩が弁護士だったこともあり、司法試験の勉強を開始。弁護士になったとき、子どもは5歳と0歳。弁護士登録は2001年のことだった。

キャリアのスタート時に、2児を抱えての生活は、さぞ大変だったはずだ。夫婦の実家が盛岡ということもあり、親の援助もほとんどなかった。それでも広瀬弁護士は「家事育児は『私がやらなければならない』と考えていました。当時は夫の仕事の機会を失わせてはならないと感じていた。今はそのような考えは全くありませんが・・・」と話す。

午前11時から午後3時まで、知り合いの弁護士事務所でいわゆる『ノキ弁(他の弁護士の事務所を間借りする軒先弁護士)』として活動。仕事を終えると、子どもを塾やテニススクールに通わせる、という生活を5年ほど続けた。夜は自宅で仕事をしたが、下の子どもの世話もあり、ままならなかった。

そして、「子どもが小さいと仕事と家の切り替えが非常に難しい。家事事件を取り扱っていると、自分の生活とトーンがそれほど変わらず、切り替えが楽になる」と気付いたこともあり、次第に家事事件に強みをもつ弁護士としてキャリアを重ねるようになった。2008年に独立して事務所を構え、今にいたっている。

離婚案件では、知り合いの弁護士から難易度の高い案件もまわってくるという。「子育ての経験は結構忘れますよ」と笑うが、これまでの葛藤のすべてを仕事に活かしている頼もしさが、依頼人からの信頼を得ているのだろう。

プロフィール

広瀬 めぐみ
広瀬 めぐみ(ひろせ めぐみ)弁護士 広瀬めぐみ法律事務所
家事調停官4年勤務の経験から家事事件に精通し、家事事件手続等につき弁護士会等で講師多数。専門家としての知識・見識と共に、依頼者から安心してお任せ頂ける優しさを心がけている。一般民事事件・刑事も扱う。

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