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「みんな自分のために生きればいい」、弁護士が教えるハッピーになるための「円満離婚」
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

「みんな自分のために生きればいい」、弁護士が教えるハッピーになるための「円満離婚」

結婚・離婚や不倫にまつわる問題は、人類がいる限りなくならないのかもしれません。そして、結婚は「制度」なので、そこには法律が不可欠となります。

最近の男女問題にはどんな傾向があるのか、そして法はどこまで人を守ってくれるのか。離婚や男女トラブルに詳しい村上真奈弁護士に聞きました。(取材・構成/亀山早苗)

● 不倫問題は増えている

――最近の傾向として、不倫は多いのでしょうか。

多いですね。配偶者の不倫相手に慰謝料を請求したいというご相談もありますし、自分が不倫していて離婚したいという話もあります。傾向として、不倫している男性は配偶者に知られているケースが多く、女性は知られていないケースが多いという実感があります。

――不倫されてしまった側は確かに辛いでしょうから、せめて不倫相手に精神的な損害を賠償してもらいたいという気持ちはあるのでしょうね。

そうですね。信じていた相手に裏切られることは本当に辛いものだと思います。ただ、中には、例えば、夫が不倫にはしる前に、妻が夫を長年無視したり、罵倒したりとかなりひどく扱っていたケースや、夫が妻に暴言を吐き続けた結果、妻が疲労困憊して不倫にはしったケースなど、不倫前のご夫婦関係が相当不和な場合もあります。

不倫は、倫理的には確かに「いけないこと」ではあるのですが、「不倫は犯罪です」という勢いで断言されると、内心、ちょっと考えさせられることもありますね。

もちろん、辛い気持ちには共感します。ただ、いろいろ聞いてみると、不倫に走る前にご夫婦間で相当な不和になっている場合もあります。もし、夫婦円満で深い愛情に満たされていれば、パートナーを裏切りたくない、不倫をしたらパートナーを失ってしまうという思いで不倫などしないかもしれません。

一方で、ご夫婦間に大した問題もないのに、積極的に他の異性と肉体関係を持ったり、そのことに何の罪悪感を感じていなかったりする人もいます。このような場合は、不倫をされた方が怒るのも無理もないと思います。

――夫の不倫がわかっても、離婚しない女性は多いものですか。

そういう女性は多いです。一番は経済的な理由ですが、離婚することで夫が自由を得て、不倫相手と幸せになるのは許せない、だから懲らしめてやるために離婚しないという人もいます。復讐してやる、ということですね(笑)。

復讐に見合うだけの高額な慰謝料をもらえるなら離婚するのでしょうけど、今の裁判実務ではそこまで高額な慰謝料はもらえませんから。

――愛情もなくなって、ずっと恨みながら一緒に暮らしていくほうが大変なような気がします。

許せないと思いながら、家族という形をとって暮らしていくのは、ご自身も辛いのではないかと思います。愛情がなくなってしまったのなら、適正な金額の慰謝料と子どもがいる場合には養育費をもらって別々の人生を歩んでいくほうが建設的ではないかと個人的には考えています。

相手が養育費を支払わなくなるんじゃないか、という不安が離婚に踏み切れない大きな理由の1つなので、養育費の支払いが確実に行われるような制度ができればいいのに、と常々思っています。

――夫が不倫をして家を出て行ったあげく、離婚を請求してきた場合にでも、離婚はできてしまうものですか。かつてはなかなか離婚が認められなかったと聞きましたが。

有責配偶者からの離婚請求は、なかなか裁判で認められないというのは、そのとおりです。相当長期間別居していること、未成熟子(経済的に自立していない子ども)がいないこと、妻が離婚によって困窮しないかといった点が考慮されます。

ただ、必要な別居期間は以前に比べて短くなってきています。未成熟子も以前は成人になるまでは認められないような傾向でしたが、最近は18歳程度になっていれば認められる裁判例も少しずつ出てきています。

つまり、子どもがいない場合は、別居期間がある程度長ければ、離婚は認められるようになってきています。

● お互いに離婚しようと約束したのに...

――実際の例なんですが、ダブル不倫をしているカップルがいて、お互いに離婚して再婚しようと約束をしていた。ところが、女性のほうは離婚したのに男性側はしない。どうも妻に離婚話すらしていなかったよう。そうこうしているうちに女性は、彼の妻から慰謝料を請求された、と。彼女いわく、自分だけが支払わなければいけないのかと憤っています。

私も過去にそういうケースを扱った経験があります。現実的には妻から、夫の不倫相手に慰謝料を請求できますから、女性は支払わざるを得ないでしょう。

ただ、この場合、夫婦は離婚していないので、それほど高い額は認められません。離婚に至ったケースと比べて、損害の程度が小さいと判断されるからです。

一方で、不倫相手の女性から男性側に対しても請求できる可能性はあります。まず、不倫関係になったのは女性だけの責任ではないでしょうから、彼にも責任の一端はあるとして、彼に対して、妻に支払った分の半額程度を請求できます。

また、女性が、彼からかなり悪質な方法で騙されていたとすれば、彼に対する慰謝料請求が認められる可能性もあります。

――かつて、不倫の慰謝料は300万円が相場だと聞いたことがあるんですが...。

裁判所の考え方も少しずつ変わってきていて、今は不倫相手に対する慰謝料で300万円はあまりないですね。100万円〜200万円が多く、夫婦が離婚していないケースで交際期間が非常に短期間だと100万円以下ということもあります。

あくまでも一次的な責任は配偶者にあって、不倫相手の責任は二次的なものだと考える裁判官もいます。地裁や高裁ではそういう裁判例が出てきています。

――この例でいえば、女性側が本気になって離婚してしまったからこその悲劇かもしれませんね。

不倫の場合、本気になってしまうのは女性のほうが多いような気がします。男性は結婚生活を壊そうとはしないことがほとんど。社会的制約が大きいせいかもしれません。

――民法における「不貞行為」というのは、1回きりの肉体関係でも認められてしまうのでしょうか。

1回きりでも肉体関係があれば不貞行為とみなされる可能性はあります。ただ、慰謝料の額としては低いものになります。しかし、肉体関係が証明された場合、その関係が1回だけだったと反論するのはなかなか難しいかもしれません。

また、仮に肉体関係があったとしても、たとえば本当に夫婦間のセックスレスの期間が長くて、男性は妻に拒絶されたあげく「外でしてきて」と言われたというケースもあるんですよね。「子どもが欲しくない」といった事情や病気など拒否する合理的な理由があれば別ですが、それほど長い期間、妻がセックスを拒否し、別の女性との肉体関係を容認していたような場合では、妻からの不貞を理由とする慰謝料請求が認められないこともあると思います。

――セックスレスである証拠も必要ですよね。

夫婦間にセックスレスであることが分かるメールのやりとりがあったりするといいですが、ない場合は、誰か第三者に相談していたとか、そのことでメールを送っていたとか、そういう証拠があるといいですね。

中には、結婚してから一度もセックスしていないというケースもあります。子どもをもうけるかどうかはその人の人生が大きく変わる要素ですし、肉体的なつながりの有無を重視する人は多いので、個人的には大きな問題だと思います。

● 「みんな自分のために生きればいい」

――相談に来る人たちの最近の特徴的な傾向はありますか?

ひとつには不倫している女性からの相談が増えたことです。もっとも、不倫をしている女性の数自体が増えているかは分かりません。表面化することが少なかっただけかもしれないので。

不倫をしても、比較的女性は自分を正当化することが多いようです。罪悪感がないわけではないのでしょうが、「私には好きな人がいて」という言い方をする。「夫がいけないからこうなった」とも言いますね。

その人自身が自分を正当化することは、生きていくために致し方ないのかもしれません。もちろん、不倫をされた方にとっては許せない行為でしょう。ただ、人生は自分のものなので、不倫をした方もされた方も、最終的には自分が幸せになる道を模索してほしいです。

我慢や忍耐、執着や復讐が人を幸せにするわけではないと思います。不倫はよくないことだと思いますし、反省して、責任を果たす必要はあるでしょう。特に、お子さんの養育費に対して無責任であってほしくないですね。

しかし、夫婦関係は人それぞれであり、周囲からはわからない事情を抱えてみなさん悩んでおられます。積極的に不倫して家庭を壊そうとか、誰かを傷つけようとする方はほとんどいないので、結果としてそういう状況になり、どうしようと悩んでいるのです。

そういう方たちを見ていると、どの方も幸せになってほしいし、みんな自分のために生きていいんじゃないかと思ってしまいますね。

――確かに、みんな自分がハッピーになるように生きたほうがいいですよね。離婚しても親子関係に変わりはないし。でも、最近は離婚後、男性が子どもに会えないと嘆くケースをよく聞くんです。日本では離婚すると、父母のどちらかが親権をもつことになりますが、共同親権にするのは無理なんでしょうか。

現行の民法では、共同親権は認められていませんが、一部では共同親権を求める動きもあるようです。しかし、今すぐ日本で共同親権が機能するかと言われれば、個人的には難しいと思います。というのは、日本は「個人」を大事にする文化ではないからです。

個人を大事にする文化であれば、離婚後、元夫、元妻がどういう生き方をしようと尊重しますし、子どものことも自分のこととは切り離して独立した存在と考えます。

日本の場合は、親がなかなか子どものことを自分と切り離して考えられませんし、元夫、元妻の人生についても干渉しようとしたりします。

共同親権の場合、子どもに関するいろいろなことを、父母が一緒に決めていかなければなりません。しかし、元夫、元妻が離婚後に互いに私生活に干渉したり、自分の感情や価値観を子どもと一致させるのは難しいことではないでしょうか。

他の国の例ですが、元妻に新しい彼や夫ができても、元夫がとやかく言うことはありませんし、その新しい彼を含めて食事をしたりすることもあります。でも日本では、元妻の新しい夫に子どもを会わせたくないなど、元夫が元妻の離婚後の人生に干渉することもあります。

もう少し、個々人の自由を尊重する社会になれば、共同親権も機能すると思います。現在の日本で導入しても、元夫婦間のトラブルが増え、子どものことを何も決定できなくなり、結果的に子どもが不利益を被るのではないでしょうか。

――今だって、元夫に子どもを会わせたくないという妻は多いですよね。日本では妻が親権を持つことが多いと思うんですが、その後、夫たちが子どもとの面会交流で元妻と揉めているとよく耳にします。

日本では弁護士や裁判所を介さない協議離婚がほとんどですから、養育費にしろ面会交流にしろ、口約束になることが多いんです。離婚するときは養育費と面会交流の2点は弁護士を入れて、きちんと取り決めて公正証書を交わす必要があると思います。

今は昔と違って、父親と子どもの関係が密になっていますから、離婚後、子どもと会えなければ、父親の精神状態にも影響しますよね。かといって、面会交流が、子どもや母親の生活を乱したり、母親の精神的な負担になり、いつも子どもと一緒にいる母親がハッピーでなくなるのもよくない。子どもは母親の気持ちを敏感にくみ取るので、ハッピーでない母親を見るのはとても辛いものなんです。

子どもの環境を安定させつつ、母親に負担になりすぎず、父親にとっても満足できる面会交流を実施できればいいのですが、元夫婦間の亀裂が大きく、信頼関係がないことがほとんどなので、面会交流の調整には大変苦労するのが現状です。

――そんなに夫婦が憎しみあう前に円満に離婚して、親子関係だけはきちんと保てばいいのに、と思うんですが。

私も個人的にはそう思います。みんないろいろなしがらみや従来の道徳観から解放されて自由に、ラクな気持ちになれば、もっと親子関係も風通しがよくなるのではないかと思います。

日本の場合は、離婚のところで、高いハードルがあります。離婚=悪という考え方がいまだ根強い。そのため、夫婦関係は壊れているのに結婚生活を続けようとする。その結果、互いに傷つけ合い、憎しみ合い、いざ離婚する時には相手に対する不信感しかありません。

それほど強く憎しみ合っている夫婦が相手のことを尊重した親子関係・面会交流を考えるのはなかなか難しいです。もう少し、離婚に対する考え方が変われば、円満とまではいかないまでもそれなりの信頼関係を残したまま別れることができるかもしれません。そうすれば、面会交流に対する考え方も変わってくるのではないかと思います。

――離婚がこんなに増えているのに、「家族幻想」みたいなものはいつまでたってもなくならない。私ももっと「個人」が自由に生きられるような世の中になればいいのにと思います。

もっともっと制度も、人の見方も多様化して自由になればいいですよね。こうすべき、ああすべきといった他者からの押しつけではなく、1人1人が幸せであることが一番大切にされる世の中になってほしいです。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

村上 真奈
村上 真奈(むらかみ まな)弁護士 弁護士法人とびら法律事務所
千葉県弁護士会所属。夫婦・親子問題に特化した事務所を運営。これまで4500件以上の離婚相談に対応し、全国でも有数の取扱件数を誇る。「一歩前に進める」離婚相談が好評。他の弁護士からの紹介案件も多い。

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