「離婚前提で別居している男性ならば、付き合っていても不倫じゃないよね?普通の恋人だよね?」。
子育て情報サイト「ママスタ」の掲示板にこんな投稿があった。
投稿者によると、相手の男性は「婚姻関係は破綻している」と主張しているという。
コメント欄には「普通の人ならさ、ちゃんと離婚してから、恋人作ったりする」「世間からしたら離婚してない時点で既婚者の男と付き合う不倫女としか思われない」「堂々と周りに紹介できる?奥さんとまだ離婚成立してないけど付き合ってますって言うの?」などのコメントが並んでいる。
離婚前提で配偶者と別居している人と交際し、肉体関係も持っていた場合、「不貞行為」とみなされるのだろうか。山田智明弁護士に聞いた。
●「婚姻関係の破綻」とは?
ーーそもそも、婚姻関係が破綻していると評価されるのはどのような場合でしょうか。
一般的には、将来離婚することに両者の合意があることを前提に別居を選択しているような場合やそれに準じるような場合とされています。
たとえば、別居をして離婚調停中や離婚訴訟中などであれば婚姻関係が破綻していると認められる可能性が高いといえるでしょう。また、そこまで至らなくても両者の関係性によっては婚姻関係が破綻していると認められる余地はあると思われます。
しかし、単に仲が悪いとか別居しているだけという事由では、婚姻関係が破綻しているとは認められないと考えられます。ただし、そのような場合でも慰謝料を考慮するにあたっての考慮要素にはなり得るため、慰謝料が減額される可能性はあります。
●相手の言葉を安易に信じると、不法行為責任を負う場合も
ーー今回のケースにおいて、もし相手男性の主張が事実で、妻との別居期間が長く、婚姻関係が破綻しているとみなされる場合、投稿者は不貞行為(不法行為)をしたことになるのでしょうか。
そのような場合には、不法行為とはなりません。これは「婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、不法行為責任を負わない」という内容の判断をした最高裁判例(平成8年3月26日)に由来するものです。
これに対して、相手男性の主張が嘘で婚姻関係が破綻していない場合は不法行為となり得ます。
もっとも、充分な注意を尽くして相手男性の主張を誤信したと評価できる場合には過失が否定され、不法行為責任を負わないこともあり得ないわけではありません。
ただし、訴訟になった場合、充分な注意を尽くしたことの立証をするのは実際上は客観的な証拠が乏しいことから困難なことが多いように思います。
ーー今回のように相手に「婚姻関係が破綻している」と言われた場合、どのようなことに注意すべきでしょうか。
婚姻関係が破綻していると認められる事例は限られています。そのため、婚姻関係が既に破綻をしているという趣旨のことを言われたとしても安易にこれを信じて交際を始めても民事上の不法行為責任を負うことになりかねません。
婚姻関係が破綻している典型例は離婚を前提とした別居です。しかし、それを立証することを考えると、離婚調停中や離婚訴訟中といった場合などが容易であり、判断が微妙な事案では裁判官によっても判断が分かれる場合もあることから注意が必要です。
トラブル防止の観点からは離婚を待ってから交際をするのが望ましいと考えます。