5年付き合って、そろそろ結婚、と思っていたら彼氏が妻子持ちだと判明。妻に慰謝料を払う義務があるのでしょうかーー。インターネットの掲示板サイトにそんな悲痛な投稿が寄せられました。
投稿者の女性の彼氏は、自分の妻からの電話を実家からの電話のように装ったり、大学や勤務先を偽ったりするなど、不倫だとバレないよう工作していました。その結果、5年間、女性も、彼氏の妻も不倫の事実を知りませんでした。
この女性のように、知らぬ間に不倫(不貞行為)をしていた場合でも、不倫と分かって関係を持っていた場合のように、慰謝料を請求されたら、支払わなければならないのでしょうか。村木亨輔弁護士に聞きました。
●不貞行為の慰謝料請求とは?
不貞慰謝料が認められるかどうかということについては、昭和54年3月30日付の最高裁判所判決が参考となります。一言でいえば、配偶者が不倫をしている場合、不倫相手に慰謝料を請求できるということです。
もう少し丁寧に説明しますと、この判決では、ある配偶者が、他方の配偶者と肉体関係を持った第三者に損害賠償を求めた事案について、その第三者に故意または過失が認められる限り、配偶者の権利を侵害し不貞行為が違法性を帯びるとして、ある配偶者の精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるとして、損害賠償責任を認めました。
なお、判決では、第三者が一方の配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、2人の関係が自然の愛情によって生じたかどうか、等の事情は関係ないとも述べています。
●今回のケースの場合は?
本件の場合、投稿者は、彼氏が様々な偽装工作をして、既婚者であることを相談者に隠していたようです。そのため、彼氏が既婚者であることを知らなかったようですし、知らないことに過失もなさそうですので、彼氏が既婚者であったとしても、投稿者はその妻に対して、不法行為責任を負わないと考えられます。
むしろ、相談者は、彼氏が既婚者であることを知らずに5年間も交際していたのですから、貞操権を侵害されたことを理由に、彼氏に損害賠償を請求する余地があります。
仮に不貞を理由に不法行為が成立する場合、慰謝料算定の要素としては、婚姻関係の破綻の有無やその程度、婚姻期間の長さ、婚姻生活の状況、不貞の期間、不貞行為の内容や主導的役割をどちらが取ったのか、子どもの有無や年齢、他方配偶者の落ち度の有無等、様々な点が考慮された上で決定されることになります。