「中学生の末っ子が夫の子ではなく、元カレとの子」――。こんな事例が「知り合いの女性から聞いた話」として、ネットの掲示板に書き込まれていた。
投稿によると、「知り合いの女性」は43歳。夫と大学生の長男、高校生の次男、中学生の三男の5人家族。この「三男」の父親が、夫ではなく、かつて交際していた「元カレ」だというのだ。結婚後にも会う機会があったようで、夫が出張で留守にしているとき、関係を持ったらしい。
現時点では、夫と元カレの血液型が同じということもあり、夫には発覚していないそうだ。ただ、今後、夫が事実を知ってしまう可能性は否定できない。もしそうなった場合、どんな法的問題が生じるのだろうか。富永洋一弁護士に聞いた。
●「戸籍上の親子関係」はどうなるのか?
「この女性は、夫と結婚しているのに、元交際相手と不倫関係にあったわけです。つまり、不貞行為をはたらいていたとして、離婚の理由となります。
また、女性は、三男の本当の父親のことを夫に隠していました。この点も、夫婦間の信頼関係を損なうものとして、離婚理由となるでしょう。
夫は、妻やその元交際相手の男性に対して、不貞行為を理由に慰謝料を請求することができます」
では、夫と三男との親子関係はどうなるだろう。
「夫は、自身と三男とが戸籍上の父子関係にないことを確認してもらう『親子関係不存在の訴え』を裁判所に提起することが考えられます。
しかしながら、子が生まれたことを知ってから1年以上経ってしまうと、原則として、戸籍上の父子関係を裁判で争うことができません(平成26年7月17日最高裁判決)。生物学上の父子関係がないことがDNA鑑定などで分かったのが、子の誕生を知ってから1年以上後だったとしても、だめなのです」
昨年の最高裁判決では、戸籍上の父親であることを否認するための訴えは「夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない」という民法777条を厳格に解釈して、DNA鑑定で生物学上の父子関係がないことがわかっても、裁判で争うことができないと判断した。
すなわち、子の誕生を知ってから「1年以上」たつと、いったん定まった父子関係は取り消せないとした。子どもの安定した身分保障を優先した判断だが、最高裁の判決に対しては、科学の進歩に対応していないという批判も起きている。
●「1年以上」たっても親子関係を変更できる例外とは?
では、例外はないのだろうか。
「あります。妊娠期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われている場合ですね。また、夫婦が遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかな場合も、例外的に、戸籍上の父子関係を裁判で争うことができます」
このケースの場合では、夫は出張が多かったようだ。これは、例外に当てはまりうるだろうか。
「出張だけでは難しいでしょう。このケースは、戸籍上の父は夫ということになるでしょう。ですから、元交際相手が三男の戸籍上の父となったり、親権者となることもできません。三男を認知して自分の子として戸籍上届け出ることもできません」
では、夫は、元カレに養育費を請求することはできるだろうか。
「元交際相手は三男の戸籍上の父ではありません。ですから、夫婦側が、養育費を請求することはできないでしょう」
富永弁護士はこのように話していた。