結婚式は人生の晴れ舞台。ところが、結婚の約束を交わし、結婚式を控えているにもかかわらず、つい浮気をしてしまう人も中にはいる。浮気のせいで婚約破棄という話は、「修羅場」の典型ケースとして、ネットでたびたび話題にのぼっている。
婚約破棄の時期が、結婚式の直前となると大変だ。式場や新婚旅行のキャンセルに始まり、式に招いた上司や友人、親せきへの連絡、そして新居の解約・・・。飛んでいくお金のことを想像するだけでも、気が遠くなってしまう。
もし、一方が心変わりして婚約破棄となった場合、結婚式場のキャンセル料など、余分にかかった費用は心変わりした側が支払うことになるのだろうか。また、「不倫の慰謝料」はよく聞くが、婚約破棄の場合も、浮気や心変わりをした人に慰謝料を請求できるのだろうか。吉田雄大弁護士に聞いた。
●婚約破棄の原因を作った側が、キャンセル料を支払う
「婚約は『婚姻を予約する』ことで、将来的に法律にもとづいた婚姻をする目的で結ぶ『契約』ですね。
婚約をするために、特別な形式は何ら必要とされていません。当然ながら、役所への届け出も不要です」
それでは、単なる口約束でも成立するのだろうか?
「書面がなくても成立しうるという意味ではそのとおりです。しかし、どんな場面、どんな間柄であっても、『結婚しましょう』『そうしましょう』という言葉が取り交わされただけで、婚約の成立が認められるというわけではありません。
婚約が成立したかどうかは、突き詰めて考えると、人と人との『親密な関係』が『法的に保護されるべき程度』に達しているかどうかという観点で判断されます」
婚約が成立しているかどうかを判断する際には、何がポイントとなるのだろうか?
「具体的な判断要素としては、結婚の約束が単なる2人だけの合意に留まっているのか、はたまた互いの家族の紹介や式場の予約など、第三者にも知れるところとなっているのか、さらには結納金や婚約指輪の授受などがあるのかどうかなど、さまざまな事情が考慮されます」
●婚約を破ったらどうなるのか?
では、成立した婚約を相手が破った場合、何ができるのだろうか。たとえば、「婚約したのだから結婚しなさい」と法的に要求できるのだろうか?
「たとえ婚約が成立していたとしても、それを理由にして、結婚そのものを強制することはできません。
しかし、一方がこれを正当な理由なく破棄した場合には、婚約不履行として、相手方が被った損害を賠償しなければなりません」
つまり、約束を守らなかった責任をとるために、賠償金を支払わされるわけだ。それでは、相手が浮気をしたため、自分が結婚したくなくなったというケースなら、どちらに「責任」があるのだろうか?
「そのように、婚約した当事者の一方があまりに不誠実な振る舞いをした場合、つまり婚姻できなくなった原因が専ら相手方にある場合などには、こちらから婚約を破棄した上で、さらに損害賠償を請求できることもあります」
●「式場のキャンセル料」も払ってもらえる
賠償してもらえる「損害」には、どんなものが含まれるのだろうか?
「『損害』には、不当な婚約破棄、あるいは婚約破棄せざるを得なくなった原因となる行為と相当因果関係が認められる限り、財産的損害だけでなく、精神的損害(慰謝料)も含みます」
具体的には、どんな内容になるのだろうか?
「まず財産的損害については、式場のキャンセル料金や新居・家具の費用等の実費のほか、結婚を機に退職した場合における逸失利益など、様々なものが考えられますね。
結納金や婚約指輪、嫁入り道具など、『どちらかが贈る物』については、婚約破棄の原因を作った側にそれを残さないとする裁判例が多いようです。
たとえば結納金なら、男性の浮気が原因で婚約が破棄された場合には返還を求めることができないが、女性の浮気による婚約破棄の場合には請求できるというわけです。ただ、これは下級審の傾向で、まだ最高裁の判例はありませんが」
婚約破棄の慰謝料は、いくらぐらいまで要求できるのだろうか?
「慰謝料の金額は、ケースバイケースですね。判断の際には、年齢や性別、社会的地位などのほか、婚約期間の長短、同せいしていたかどうか、性交渉や妊娠の有無、さらには過去の妊娠中絶の有無をはじめ、婚約破棄の時期や破棄理由などあらゆる事情が考慮されます」