食事中も、風呂に入っても、トイレの中でも手放さない――。東京都内の企業で働いているユミコさん(20代後半)は、二人でいるときも、常にスマホの画面ばかり眺めている夫(30代)と離婚したいと考えている。
ユミコさんと夫には子どもはおらず、夫婦共働きの二人暮らしだ。仕事が終わった後や休日は、せめて会話をする時間がほしいと考えている。ところが、夫は食事中も、ベッドに入った後もスマホを手放すことはなく、ユミコさんが話しかけても適当に相槌をうつだけだ。
結婚して3年。ユミコさんは家にいても、自分には目もくれず、スマホばかりいじっている夫と別れたいと考えるようになった。夫が浮気やDVをしているわけではないが、離婚理由になるのだろうか。離婚問題にくわしい峯岸孝浩弁護士に聞いた。
●離婚の理由は、大きく分けて5種類
「裁判で離婚が認められるためには、民法770条1項で定められている『離婚原因』に該当する必要があります。具体的には次の5つです。
(1)不貞行為(2)悪意の遺棄(3)3年以上の生死不明(4)強度の精神病で回復の見込みがないとき(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由」
スマホばかりいじってユミコさんを無視することは、どれかにあたるのだろうか。
「まず、(1)(3)(4)は該当しないでしょう。
また、(2)の『悪意の遺棄』とは、夫婦の同居義務や扶助義務を一方的に放棄することですが、夫はユミコさんと同居はしていますし、生活費を渡さないというわけでもないようですので、該当しないでしょう。
可能性があるとすれば、(5)『その他婚姻を継続し難い重大な事由』ですね。
具体的には、暴力や虐待がある、性交できない、異常な性癖がある、親族と仲が悪い、浪費癖がある、性格の不一致など、さまざまなものがあります。
ユミコさんの夫は、夫婦の会話よりもスマホが大好きなようなので、該当する可能性があるとすれば『性格の不一致』でしょう」
●「性格の不一致」で離婚できる場合とは?
夫か妻の一方が「性格があわない」と考えれば、離婚できるということだろうか。
「たしかに、性格が合わなければ、婚姻生活を継続するのは苦痛かもしれません。しかし、たんに性格が合わないというだけでは、裁判所はなかなか離婚を認めてくれません。
なぜなら、性格が合わないとしても、夫婦の努力により円満な関係を築ける可能性があるからです。
性格が合わないことに加えて、別の事情がないと『婚姻を継続し難い重大な事由』と認められることは厳しいでしょう」
今回のケースは、どう考えればいいだろう。
「夫はスマホの操作ばかりして会話をしないとのことですから、ユミコさんが不満を感じるのは当然です。しかしながら、夫は、不倫をしたわけでも、暴力をふるったわけでもありません。適当に相槌を打ってはいますが、積極的に無視をしているわけでもないようです。別居もしていません。
したがって、現時点での状況では、裁判所が離婚を認めてくれるほどの『性格の不一致』に該当するとまではいえず、裁判所が離婚理由として認める可能性は低いと思います。
ユミコさんが本当に離婚したいのであれば、別居をするなど、他の事情が必要でしょう。別の言い方をすれば、別居に踏み切れないのであれば、夫と真剣に話し合うことにより円満な夫婦関係を築けるよう、こころみたほうがよいかもしれませんね」
峯岸弁護士はこのように述べていた。