育児休業から復帰したあと、倉庫勤務を命じられたのは不当などとして、「アシックス」(本社:兵庫県神戸市)で働く男性(38)が6月28日、同社を相手取り、不本意な配置転換の無効や慰謝料約440万円などを求めて東京地裁に提訴した。
提訴後、男性と代理人弁護士らが東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見した。
男性は育休取得について「父親としての時間を持ちたかった」と振り返り、「会社は真綿で首を絞めるようなことをしてくる。私に対する対応は、他の男性に育休なんかとるなという圧力であり、見せしめのようなものだ」と訴えた。
●1年の育休取得後、出向で倉庫勤務に…
訴状などによると、男性は2011年、関連会社での経験を買われて同社の東京支社に入社。日本代表選手に商品のプロモーションなどをおこなう部署に配属され、2013年11月に人事部に異動。社内研修など人事労務の業務をしていた。
2015年2月に第一子が誕生した後、約1年育児休業を取得。復職後、茨城県内の物流倉庫で商品の荷下ろしや検品などをおこなう「アシックス物流」への出向を命じられ、ダンボールを運ぶなど肉体労働をした。
男性は「出向は育児介護休業法違反」などと主張し、代理人弁護士を通じて会社と交渉。出向は解除され2016年7月、人事部に配転となった。
人事部では、社内規定の英訳や介護に関する参考情報の調査などをするよう提示されたが、男性は業務命令とは認識していなかったという。会社側は男性が業務命令に従わなかったとして、けん責・減給処分を行った。
その後、2018年3月に第二子が誕生した後、再び約1年育児休業を取得。復職後、再び人事部で英語版社内規則の更新や、介護に関する情報調査などを命じられた。
●「過小な要求」型のパワハラと主張
原告側代理人の笹山尚人弁護士は「育児休業取得を理由に倉庫に配転されるというパタニティハラスメント(パタハラ)の事案だが、男性は懲戒処分なども含めて、様々な嫌がらせを受けている」と指摘する。
男性はもともと、前職でも従事していた選手へのプロモーション業務を買われて入社していた。現在命じられている英訳や調査などの仕事は「男性が選定されて配属される合理性はない。男性の能力や経験とおよそかけ離れている業務である」として、「過大な要求」型、「人間関係からの切り離し」型のパワーハラスメントであると指摘する。
また倉庫への出向命令は「育児介護休業法10条に加えて、同社のマタハラガイドラインにも違反する」と主張。懲戒処分の取り消しも求めている。
●「奥さんが働かないといけないのか」
「私が育休を取得していた間は(会社側が)放置していた仕事をまた命令してくる。最初から必要ではない仕事を与えているんじゃないか」
男性は会社への不信感を露わにした。担当業務は一人で、業務指示もフォローもないという。
振り返れば長男が生まれる前、部長に「子どもが生まれたら育児休業を取ろうか検討している」と話したところ、「奥さんが働かないといけないのか」と育休取得をけん制されたこともあったという。
●アシックス「コメントは差し控える」
アシックスは弁護士ドットコムニュースの取材に、以下のようにコメントした。
「訴状が届いていないので、当社社員の言い分についてのコメントは差し控えさせていただきます。
当社はこれまで、当社社員の代理人弁護士や、当社社員が加入した社外の複数の労働組合も交えて順次、誠実に交渉を続けてまいりましたが、最終的な解決に至らずに残念です。
当社としましては今後、裁判の中で事実を明らかにしていきたいと考えております。当社は、ダイバーシティの推進に力を入れており、妊娠・出産・育児の期間にも人財が活躍できるよう、今後とも職場環境や支援制度の一層の充実に取り組んで参ります」
●これまでの経緯
2011年 入社(東京都のオフィス勤務)
2015年2月 長男誕生
2015年2月16日〜3月31日 育児休業
2015年5月18日〜16年6月15日 育児休業
2016年7月1日 アシックス物流に出向(茨城県の倉庫勤務)
2016年10月1日 本社(兵庫県)の人事部付(東京都のオフィス勤務)
2018年3月 次男誕生
2018年3月21日〜4月27日 育児休業
2018年5月17日〜19年4月8日 育児休業
2019年6月28日 東京地裁に提訴