オウム真理教による事件の被害者らを支援する「オウム真理教犯罪被害者支援機構」(宇都宮健児理事長)と遺族は6月27日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見、被害者ら512人に合計3億5000万円の賠償金が支払われると発表した。賠償金の配当は11年ぶりとなる。
オウム真理教の教団は一連の事件の被害者から約38億2000万円の損害賠償を請求され、1996年に破産した。破産管財人は約15億5000万円を被害者に配当したが、約22億7000万円の債務が残った。2009年以後は、支援機構では後継団体に請求を行うとともに、被害者に賠償金を配当する事業を行なっている。
しかし、いまだ賠償は思うように進んでいない。支援機構は教団の後継団体である「アレフ」に未払金約10億5000万円を請求。東京地裁で今年4月、アレフに支払いを命じる判決が下されたが、アレフ側は控訴した。今回の配当の背景には、被害者の高齢化や裁判の長期化があるという。
地下鉄サリン事件で夫を亡くした高橋シズヱさんは会見で、「(後継団体である)アレフやひかりの輪は、大変な事件を起こしたという自覚をもってほしい。賠償を完遂してほしいと思っています」と語った。
●アレフに10億円の支払い求める地裁判決、控訴審へ
今回、賠償金が支払われるのは、地下鉄サリン事件や松本サリン事件の被害者、仮谷清志さん監禁致死事件、坂本弁護士一家殺害事件などの被害者や遺族。このタイミングでの配当について、宇都宮理事長は「4月の東京地裁での判決をふまえ、アレフには速やかに賠償金を支払ってほしかったが、残念ながらアレフは控訴をしました。控訴審がまだ続くことになりましたので、現在までに回収できた分をできるだけ配当することにしました」と説明した。
一方で、懸念されるのが被害者や遺族の高齢化だという。「アレフとの控訴審でも判決を確定させて、できるだけ早く次の配当をしたい」と語った。支援機構の中村裕二副理事長も、「アレフは多額の資産を抱えながら約束通り支払いがないのは言語道断。その資金力があれば一気に賠償金を支払うことができます」と指摘する。
仮谷さんの息子、実さんも、「まだ加害者から償いを受けていない被害者もいます。これまで裁判でも求めてきましたが、アレフなどはしっかりと償いをしてもらいたいと思っています」と、あらためて教団と後継団体の責任の重さを指摘した。
また、高橋さんは支援機構と裁判となっているアレフについて、「毎年、資産を増やしています。被害者に賠償をしないで、その資産をどうするのか。私たちにしてみれば、恐怖があります」と心情を語った。
●松本サリン事件から25年…「事件の記憶をつなげていきたい」
会見が行われた日は、1994年6月に起きた松本サリン事件から25年だった。そして、間もなく、オウム真理教の元死刑囚たちが刑を執行されてから1年となる。遺族としての気持ちを記者に訊ねられた高橋さんは、次のように語った。
「この1年で事件に関する色々な本が出版されました。この事件を記録、そして記憶として残していかなければいけない。今後の教訓として事件の再発防止につなげていってほしいです」