JASRAC(日本音楽著作権協会・浅石道夫理事長)は5月22日、東京都内で定例記者会見を開いて、2018年度の事業報告をおこなった。著作権使用料の徴収額は1155億7768万円(前年度比5.4%増)、著作権者に対する分配額は1126億4769万円(前年度比1.6%)で、それぞれ過去2番目の実績となった。
また、演奏者が日替わり出演するライブハウスの利用については、これまでサンプルをもとに推計する「サンプリング方式」で著作者に分配していたが、2020年3月から、利用実態に即したデータをもちいる「センサス方式」に移行すると発表した。さらに、市場構造の変化などを踏まえて、2019年9月から管理手数料率を段階的に変更するとした。
JASRACのいではく会長は「(2016年の)就任当初、JASRACは、いっぱいお金をとっていくというイメージが強かったが、世間の認識も少しずつ変わってきている。きちんと利用者から使用料をいただいて、権利者にきちんと分配しているということが、やっと認識されてきている」と話した。
●BGM無断利用の飲食店を提訴している
JASRACは5月13日、著作権を管理する楽曲がBGMとして無断使用されたとして、山梨、大阪、福岡の飲食店に対して、管理楽曲の使用差し止めと損害賠償をもとめる訴訟を一斉におこしている(https://www.jasrac.or.jp/release/19/1905_01.html)。
BGM利用をめぐっては、記者会見の質疑応答で、朝日新聞の赤田康和記者から「音楽の利用を行き詰まらせないような工夫はしないのか?」という質問があがった。浅石理事長は、著作権をどう捉えるのかについての見解を示すなど、いささか緊迫したやりとりとなった。
主なやりとりは、以下のとおり。
●浅石理事長「著作権は基本的人権だ」
赤田記者:床屋やレストランなど、小さなお店で、マスターが好きな曲を流すこともあります。そういったものも法的措置の対象になりますが、微細な利用について、なるべく細かく網をかけず、音楽の利用をいきづまらせない工夫をなさる考えはないのか?
浅石理事長:著作権は人権です。人権侵害を「些細なことまで許す」ということが、社会にどんな影響を与えているのか。たとえば、いじめの問題を一つとっても、小さな芽が何かあったはずです。その芽をつぶしていかなかったために、今どういう状況になっているか。
われわれは著作権という基本的人権を守っている団体です。この団体が、小さな著作権侵害だろうが、大きな著作権侵害だろうが、人権侵害については一切目をつむるつもりはありません。著作権だからということではなくて、人権として考えたときに、今のような質問がされることに対して、はっきり申し上げて甚だ心外です。
●著作権は「人工的な権利」か?
赤田記者:著作権は、きわめて人工的な権利で、財産権として設定されているわけですが、そこにいろいろ制限もありますし、そもそもBGMはもともと適用除外になっていました。天賦人権のように言われていますが、天賦人権であるという説と、人工的に設定されたインセンティブのための権利だという説があります。
そういった観点で考えたとき、利用の萎縮を促してはいけない。音楽の利用をしにくくなるといけない。著作権法1条にも「利用と保護」の両方のバランスをはかる、と書いてあるわけです。そのバランスを欠いてはいませんか?
浅石理事長:現行の著作権法をお書きになった加戸守行さん(元文化庁官僚、元JASRAC理事長)も「著作権は天賦人権ではない」「法律によって制定されるものだ」「その法律は憲法29条にある」と言っています。憲法29条(財産権)は、基本的人権です。そして、条約によっても、基本的人権と宣言しているわけです。
このことをまずおさえないで、そんな中途半端な内容をもって、質問されることは、甚だ心外だと思っています。著作権は一体何なんだ。基本的人権であるとお考えいただきたい。